柄本佑、『光る君へ』道長の鍵は“鈍感力” 吉高由里子の変化に「めっちゃ紫式部ですよ!」
『源氏物語』を書く/読むという関係性が強固なものに
――まひろが道長の子供を身籠るという展開については、柄本さんはどのように受け止めていましたか? 柄本:そうなりそうみたいなところから、そうなったという段階は、現場で大石さんなり、プロデューサーの内田(ゆき)さんから、風の便りで聞いていたような気がします。大事なポイントですし、そういった決断をするということにある種の覚悟を感じずにはいられなかったですね。決断したこのチームに勇気をもらいました。 ――第31回では、道長がどんな思いで月を見上げていたかをまひろに打ち明ける場面があります。これまで月を見上げてそれぞれが思いを馳せるといったシーンが描かれてきましたが、道長はまひろのことを思って言ったのか。柄本さんはどのように解釈されていますか? 柄本:それはまひろのことを言っているんじゃないかと思います。セリフだと「誰かが同じ思いで月を見つめていてくれたら」といったことを言うんです。まひろは隣にいるからまひろではない気もしますけど、でも明らかにまひろのことなのではないかと。まひろと道長は離れている時間の方が長かったりして、それに道長はストレートな人でもあるので、まひろのことなのではないかと思いますね。「直秀も月におるやもしれぬな」というセリフで直秀(毎熊克哉)に思いを馳せるシーンがあったりして、撮影が大変だったのもあり印象深いです。ものすごく長いシーンなんですよね。思いが錯綜して行ったり来たりしながら、これまでのことを振り返っていくような。最終的に月を眺めて、「人はなぜ月を見るのだろうか」というところから、また先へと進んでいく。そういった推進力が生まれるシーンはエネルギーを使うので、吉高さんと協力し合いながら切磋琢磨していきました。 ――道長が『源氏物語』の最初の読者になるということについてはどのように感じましたか? 柄本:道長としては、不安なところがあってきっと冷静には読んでないと思うんです。展開としては美しいですけど、道長本人からしてみれば冷や汗をかく場面ですよね。一条天皇が『源氏物語』を喜んでくれて、彰子の元にお渡りになってくれたらという思いもあるんですけど、『光る君へ』の物語が進んでいくにつれて、『源氏物語』を書いているまひろの作家としての才を認めていく、作品にかける熱意を目の当たりにするシーンがあるんです。それは自身の差配がよかったというのを感じる場面でもあって、僕の中で『源氏物語』を書く/読むという関係性が強固なものになったのはそこが大きいと思っています。 ――道長の政治のやり方としては割と回りくどい手を使っている印象ですが、一条天皇との関係性についてはどのように感じていますか? 柄本:道長の政治のやり方は人を見ているところがあって、人によって表情だけでなく声すらも変わるような人物像でいきたいというのは最初に監督やプロデューサーとも話していたことです。一条天皇に対しては回りくどいやり方なのかもしれないですけど、それが人としての付き合い方で、今より先を見てるという感じなのかなと思います。道長は一条天皇にいろんなことを言ったりするんですけど、最終的には一条天皇のことを信頼しているんですよね。せめぎ合いはするんですけど、根っこには強い信頼関係を感じます。 ――最高権力者になる道長のやっていることは思いは違うにしても父の兼家(段田安則)と変わらないという見方もできると思います。柄本さんの中で兼家の存在を意識している部分はありますか? 柄本:難しいですね……。「父と同じことはしたくない」というセリフがあったりもするんです。ただ、結果として同じようなことをしてしまっているということと、したくないというところの整合性をどう取るかは、正直なところ全てが終わってみないと分からないです。でも、非常に根は深いと思います。父と同じことをしていても気持ちが違う、「政とは家の存続」という出発点が違うのかな。今収録しているところでも、道長の旅路は途上で、問題が山積みなんですよ。それらが落ち着いてきた時に、僕自身も見えてくるものがあるかなと楽しみにしています。
渡辺彰浩