ブリヂストンも見習った仏ミシュランの経営哲学、「タイヤの溝の角度まで特許で守る」納得の理由
■ 優れた経営者に共通する「ある能力」とは ──荒川さんはCEO就任当初、ブリヂストンが創業時から掲げてきた社是を改訂し、新たに企業理念を策定しましたが、そこにはどのような目的があったのでしょうか。 荒川 社是は非常に良いものでしたが、それだけでは足りないと思ったことが理由です。ファイアストンの買収後、ブリヂストンはグローバルカンパニーに成長し、日本人以外の従業員も増え、物事の考え方も多様化していました。だからこそ、グローバルに通用する「良き常識」をつくるために、社是の精神を受け継ぎ、企業理念へと改訂することにしました。 もちろん、何らかのルールを作り、それを徹底させることでグループ全体をまとめる方法もあります。しかし、それではルールでカバーすべき範囲があまりに広くなり、ダイバーシティ&インクルージョンが失われる恐れもあります。だからこそ、改訂のプロセスでは徹底したディスカッションを行い、現場に浸透するような企業理念を模索しました。 こうして議論を重ねた結果、「最高の品質で社会に貢献する」という使命を掲げた上で、「誠実協調」「進取独創」「現物現場」「熟慮断行」という4つの心構えを定めました。ただし、企業理念を策定した段階では「単なる言葉」にすぎないため、その後の実践を通して「実体のある言葉」にしていかなければなりません。ここで留意すべきは、経営トップが企業理念を死守することです。 例えば、ある工場で設備が故障したとき、従業員の安全を最優先するために、即座に生産をストップさせるように指示したことがあります。「いかなる場合でも安全第一」と伝えていたものの、場合によっては数億円規模の損失が発生し、さまざまなステークホルダーから責められかねない状況でした。 しかし、ここでひるめば心構えに記した「熟慮断行」という言葉に反します。つまり、経営にとって本質的に重要な「安全第一」を順守するために、躊躇(ちゅうちょ)なく生産ストップを決断すべきなのです。 このように経営トップがリスクを取ってでも企業理念を順守することが、社員が企業理念を尊重すること、ひいては「企業理念が良き常識として社員の心に根付くこと」につながると考えています。