ブリヂストンも見習った仏ミシュランの経営哲学、「タイヤの溝の角度まで特許で守る」納得の理由
■ ブリヂストンも模範にしたミシュランの「技術に裏打ちされた哲学」 ──ミシュランの技術はどのような点で優れていたのでしょうか。 荒川 ミシュランは基礎研究レベルのイノベーションを次々と起こし、それらの多くを特許で保護していました。例えば、タイヤの溝の一本一本の角度まで特許で守られているのです。その角度を変えて溝を作ると「偏摩耗」という現象が起きてタイヤが均一に減らなくなるため、製品の品質を決める生命線とも言えます。それだけ技術的な裏付けをもって、ミシュランは製品開発を進めていたのです。 特に、ミシュランが開発した「ラジアルタイヤ」は非常にユニークでした。タイヤのゴムは繊維などの補強材を内蔵しているのですが、同社はその補強材の構造に革命を起こし、新たなスタンダードを作りました。 さらに、このラジアルタイヤの補強材として「スチールコード」という技術革命を起こし、タイヤの強度を劇的に向上させたのもミシュランでした。ゴムの補強材としてスチールを使うアイデアがあっても、ゴムとスチールは物質として相性が悪く、両者を結合することは困難とされていました。しかし、ミシュランは両者を結合する「特殊な接着剤」の開発に成功し、タイヤの寿命を格段に延ばしたのです。 こうした技術的なイノベーションは、強力な基礎研究力なくして実現できません。そして、自社が開発した基礎技術に関する特許を押さえている点も、同社の強さにつながっていました。ミシュランに追随せざるを得なくなった企業は、同社に莫大(ばくだい)な特許料を支払わざるを得なくなったからです。 私は社長秘書を務めていた時期、ミシュランのトップと会談する機会がありました。その時の印象は「非常に見識のある方で、技術に対する思いが特に強い」というものでした。世界に冠たるブランドを作り上げた背景には、優れた製品を生み出すための確固たる基礎技術、そして基礎技術を重視する経営哲学があったのです。