亡き義母から継いだ使命感を筆に 21世紀国際書展韓国大使館韓国文化院賞の北川雅翠さん
7月10日に開幕する「第39回21世紀国際書展」(主催・産経新聞社、21世紀国際書会)の授賞式を前に、特別大賞に選ばれた4人の横顔を紹介する。韓国大使館韓国文化院賞の北川雅翠さん(58)は決して書が好きではなかったという。それがいつしか無我夢中になり、書家としての道を歩み始めた。日本の書を、世界が認めるアートに。夢は膨らんでいる。 ■16年間離れていた書と向き合うことに 人生の分岐点は突然やってくる。「本当は好きで始めた書ではないんです」。義母の死によって、16年間も離れていた書と、30歳前に向き合うことになった。 小学生の6年間は習い事として続けた。書くことは好きだったが、中学生になると筆を置いた。その後は高校まで剣道を続け、出身の栃木県足利市の大会で個人戦で優勝。陸上の応援部員で駆り出されることもあった。運動神経は抜群。活発な青春時代を送った。 大学に進み、社会人になって夫と知り合い結婚。嫁いだ先の義母が、横浜市港南区の書道教室を主宰していた書家の北川翠泉だった。2児をもうけ、母親業を全うしていたころ、義母が急逝した。 残された書道教室をどうするのか。義母の弟子に加え、所属する新芸書道会の遠藤岑翠(きんすい)会長(当時)夫妻が並んだ話し合いは数時間に及んだ。「バックアップする」と言ってくれた2人を除き、厳しい言葉を発する複数の弟子たちに返す言葉はなかった。悔しかったが、泣きながら継ぐことを誓った。 ただ、遠藤夫妻をはじめ、教室に残った人たちのサポートに救われた。書は遠藤さんに師事し、5年間修行。子育てと両立しながらだったが、遠藤さん夫妻は「あなたのペースでやりなさい」「きっと子供たちが憧れる先生になる」と励ましてくれた。 ■契機となった書家の言葉 教室を始めて5年10年は無我夢中だった。何より、生徒の子供たちが成長していく様子に力をもらった。中には「書くのが嫌、もう書きたくない」と言っていたのに、27歳になって続けてくれる男性もいた。教え、育てることに充実感があった。 それでも書くことは楽しくなれなかったという。そして、2つ目の分岐点がやってくる。