ヨコシマな心では当たらない? 香りを聞き、違いを嗅ぎ分ける「組香」の極意とは?
田中 「籬の梅」の香木は何ですか。 蜂谷 香木は伽羅です。元々は沈水香木は生産地で分けていましたが、今は家元が伽羅(きゃら)・羅国(らこく)・真南蛮(まなばん)・真那賀(まなか)・佐曽羅(さそら)・寸門多羅(すもんだら)の6つに分類しています。 さらに香りを甘(あまい)・苦(にがい)・辛(からい)・酸(すっぱい)・鹹(しおからい)の5つの味に分け、これを六国五味(りっこくごみ)として表現します。志野流では、入門後数年のちに、500年以上継承してきたこの「六国五味」を家元から事細かに伝授されます。もちろん伝授で受けた内容は多言禁止であり、それをもとに、勝手に流儀を立ち上げることも許されておりません。
田中 書かれているものに自分の感性を一致させるのは大変ではないですか。 蜂谷 目に見えないものを継承するのは簡単名ことでありませんね。しかも初代が分類した香りが志野流の根源ですから、途中で変わってはいけない。私は歴代家元がしてきたように、初代と同期しなければなりません。 石井 香りを味で表現するのも難しい気がします。強い香りではないでしょうし。 蜂谷 100個香木があれば100の香りがある。基本的にすべて近い香りですから、その違いをきちんと自分の感覚で判別できるかどうか。またその香りからイメージを膨らませて和歌を詠んだりもします。香道は現代社会で失われた感覚を取り戻す作業でもありますね。 石井 非常に難易度が高そう。大丈夫かな……。
蜂谷 さて、聞き方の作法ですが、まず香炉が回ってきたら、右手で取って左手で受けます。親指を縁にかけたほうが安定しますのでしっかり持ってください。そして自然界に感謝して押し戴く。 それから香炉を時計と反対回しに90度、もう一度90度回すと正面が真向こうに来ましたね。そして右手で香りを閉じ込める。香りが逃げないように指をしっかり丸く閉じて、香炉に鼻を近づけていきましょう。ゆっくりと聞いて、息を吐く時は左側にゆっくり吐いて、また聞きます。これを3回繰り返します。 3回聞き終わったら今度は時計回しに2回、元の位置に戻したら、お隣の方との間くらいの位置に置いてください。手渡しは危ないですから、必ず下に置きましょう。出す時には銘を伝えます。 田中 今回なら「籬の梅」と伝えてお隣の方が受け取れる位置に置けばいいんですね。 蜂谷 はい、そうです。いただく前には、次の方に「お先に」と挨拶しておきましょうね。では始めてみましょうか。