南アフリカ総選挙で与党ANCが「過半数割れ」の大敗…この結果は国際政治にどのような影響を及ぼすのか?
国際政治への影響
有権者の関心は専ら内政問題であったが、国際政治の観点からも、今回の選挙結果は大きな意味を持つ。 アパルトヘイトの時代に、欧米と対抗するために、ロシア(ソ連)や中国はANCなどの活動を支援してきた。そのこともあって、ANC政権は、親ロシアの色彩が濃く、ウウライナ侵略についてもロシアを非難せず、中立的な立場を維持してきた。ロシアとの共同軍事演習も行っている。 DAは親欧米であり、この政党が連立入りすれば、外交安全保障政策も変化する。一方、MKやEFFは、反欧米の旗幟を鮮明にしており、プーチン大統領を支持する。彼らが連立入りすれば、ロシアへの傾斜が増す可能性がある。 南アフリカは、ブラジル、ロシア、インド、中国とともにBRICSを構成するグローバルサウスを代表す大国である。2023年8月には、議長国南アフリカのヨハネスブルクで第15回BRICS首脳会議が開かれた。 この会議では、アルゼンチン、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の新規加盟が決まった(アルゼンチンは、昨年12月にハビエル・ミレイ政権が発足し、BRICS加盟を撤回した)。このBRICSの拡大によって、世界の多極化がますます進んでいくものと思われる。 しかし、GDPでは、アフリカの中でナイジェリアやエジプトの後塵を拝している。国内政治の混乱が、アフリカにおける南アフリカの地位のさらなる低下をもたらす可能性がある。 また、ガザをめぐっては、南アフリカは、昨年12月29日にICJ(国際司法裁判所)にイスラエルがジェノサイドを行っていると提訴した。ICJは、それを受けて、2024年1月26日に、人道支援を可能とする措置をとることを命じる暫定措置命令をイスラエルに対して発出した。 中東情勢を巡っても、南アフリカは、ハマスとも関係を維持し、欧米とは一線を画している。連立交渉の行方は、今後の中東政策にも影響する。 2025年には、南アフリカがG20の議長国を務める。議長国は2023年がインド、2024年がブラジルで、BRICSの国々が連続して務める。 今回の選挙を見ても、南アフリカが民主主義国であることは確かである。権威主義体制のほうが民主主義体制よりも拡大している今日、このことは明るい材料である。 アフリカ大陸を一つの市場とするAfCFTA(アフリカ大陸自由貿易圏)の発展が期待されているが、その事務局長は、南アフリカの貿易産業省出身が務めている。 連立交渉が順調に進み、南アフリカで安定した政権が誕生することは、アフリカ大陸のみならず、世界全体にとっても大きな意味を持つ。日本からは遠く離れた南アフリカであるが、今後の連立交渉の展開に注目したい。
舛添 要一(国際政治学者)