南アフリカ総選挙で与党ANCが「過半数割れ」の大敗…この結果は国際政治にどのような影響を及ぼすのか?
与党ANCの敗因
ANC過半数割れの原因は、経済の悪化と格差の拡大である。とくに電力不足が酷く、度重なる停電は経済活動にも大きな影響を与えている。 南アフリカは世界第7位の石炭産出量を誇りながら、発電所の新設や更新が進められていない。汚職と官僚主義が政府の効率的な政策運営を妨げており、海外企業が撤退したり、新規投資が滞ったりしている。 イギリスの石油大手シェルは、5月6日、リテール、輸送、精製など下流部門から撤退することを決めた。 失業率も32.9%で、10年前より10%も悪化している。とりわけ若年失業率は、15~24歳が6割、25~34歳が4割である。人口の3分の1は「ボーン・フリー」と呼ばれ、30年以上前のアパルトヘイトの時代を知らず、マンデラ神話の神通力も効かない。 さらに、貧困ライン以下の生活をする人口は62%に上っている。所得上位の10%が富の70%を独占し、下位40%は7%のみである。 また、犯罪が増加し、治安が悪化している。ヨハネスブルクの旧中心街はゴーストタウンと化し、周辺諸国からの不法移民で溢れている。このような状態は、マンデラが掲げた多人種共生の「虹の国」とはほど遠い。
連立交渉の行方
大統領は、14日以内に議会で選ばれる。現職のシリル・ラマポーザ大統領が再選されるためには、他の政党と連立を組む必要がある。しかし、連立交渉は容易ではない。 DAは白人政党であり、ANC支持層には受け入れがたい。DAは、黒人優遇策の廃止を主張しており、政策的にも受け入れがたい。また、ANCが掲げる国民医療制度導入にはDAは反対している。さらには、後述するが、外交政策でも両党には大きな違いがある。 一方、MKは、連立の条件としてラマポーザの辞任を求めている。しかし、ラマポーザに辞任する気はない。 さらに、MKやEFFは、白人所有の土地を強制収容することなどを掲げている。人口の80%を占める黒人は、土地の7%しか保有していない。 経済悪化や汚職に辟易する人々が、変化を求めてMKやEFFに投票したが、連立政権交渉は一筋縄ではいかないであろう。