『ゴールデンカムイ』謎めいたアイヌの女性、インカㇻマッはどのように命名されたのか…監修者が語るキャラクター設定の裏話
インカㇻマッが使う「シラッキカムイ」とは何か?
インカㇻマッは7巻60話で初登場しますが、その時からよく占いの道具として使っているシラッキカムイというものがあります。これは動物や鳥の頭骨を、ヤナギなどの木から削り出したイナウキケという「削りかけ」でくるんだもので、持ち主の守り神となるものです。 一見、2巻12話でヌサ「祭壇」に祀られている熊の頭骨と同じようなものに見えますが、実は熊の方は、その魂をカムイの世界に送り返してしまっていますので、頭骨自体はその抜け殻にすぎません。 それに対して、シラッキカムイは魂を送り返さずにイナウキケで包んで、家の一角に大事にしまっておくものです。つまり魂がその頭骨の中に居続けているので、直接的な力を所持者に与えることができるというわけです。 インカㇻマッはキツネの下顎の骨を頭に載せ、それを下に落として、その時の骨の向きで占いをします。この占いのやり方自体は北海道全域にあるのですが、実はキツネの骨を使うのは北海道の西側のやり方で、東側ではイトウやイトヨといった魚の下顎の骨を使って同じことをします(『コタン生物記』299頁、『アイヌ民族誌』615頁)。 更科源蔵(さらしなげんぞう)氏は「特に下顎を使うのは、下顎がはずれると話せなくなるので、特別の力があると信じていたようである。なんど殺されても生き返る魔物も、下顎を失うと再生の力を失う物語がよくある」(『アイヌの民俗』上、135頁)と言っています。 またシラッキカムイと呼ばれるものはキツネに限りません。アホウドリの頭骨を同じようにイナウキケでくるんだものも、シラッキカムイと呼ばれます。キツネをキムンシラッキ「山のシラッキ」、アホウドリをレプンシラッキ「沖のシラッキ」と呼ぶこともあります。 ウミガメもまたこのような形でしまっておき(12巻114話)、日照りが続く時に、雨乞いに使われました。もっともそのやり方は、川の中に棚を作ってその上に上げておき、「ここまで水を呼ばないと、いつまでもそのままにしておくよ」という、つまり脅迫して雨を降らせるというものでした。 いささか乱暴ですが、アイヌはカムイを自分たちよりはるか上位にあるものと見ているわけではないので、このようなやり方でカムイと駆け引きすることはよく見られます。 こうしたものとはまた別に、チコシンニヌㇷ゚と呼ばれるお守りがあります。ウパㇱチロンヌㇷ゚「オコジョ」などの、めったに捕まえられない動物を捕まえた時に、それをやはりイナウキケにくるんで、誰にも言わずに箱の底の方などにしまっておきます。そうすると災いを避けたり、いいことが起こるといわれています。 この場合も魂をカムイの世界に送ったりなどしないで、自分のそばで見守ってもらうわけです。