ホームレスら≪いと小さき者≫たちと生きた牧師、口だけでない著者の実践に敬服だ―鈴木 文治『差別する宗教: インクルージョンの視座からの告発』橋爪 大三郎による書評
インクルージョンは排除の反対。障害があっても誰でも仲間だ。著者はそれを実践。ホームレスら≪いと小さき者≫たちと生きた牧師だ。 著者はキリスト教を批判する。軍部におもねり戦争に協力した。障害者を差別した。その過去を反省していない。日本基督教団は大政翼賛会の一部だった。「戦時布教指針」はいう、≪大東亜戦争の目的完遂に邁進≫≪忠君愛国の精神の涵養に努め…滅私奉公の実践者たらしむる≫。教団は一九六七年「戦争責任告白」を発表したが内部に反対もあった。 障害者の洗礼も拒否した。使徒パウロが「口でイエスを主であると言い表す」のが信仰告白だとしたからだ。イエスの教えに反している、と障害者教育を担った著者は言う。 仏教も同罪だ。因果論に立ち、障害は本人の前世か家族が原因だとした。なおさら障害者を苦しめた。殺生戒に背いて≪殺せ、大(おおい)に殺せ≫と書く僧もいた。≪ほとんどの宗派が積極的に…戦時協力した≫のだ。 本書の勇気ある告発を「排除」するなら、そんな宗教に未来はない。口だけでない著者の実践に敬服だ。 [書き手] 橋爪 大三郎 社会学者。 1948年生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。執筆活動を経て、1989年より東工大に勤務。現在、東京工業大学名誉教授。 著書に『仏教の言説戦略』(勁草書房)、『世界がわかる宗教社会学入門』(ちくま文庫)、『はじめての構造主義』(講談社現代新書)、『社会の不思議』(朝日出版社)など多数。近著に『裁判員の教科書』(ミネルヴァ書房)、『はじめての言語ゲーム』(講談社)がある。 [書籍情報]『差別する宗教: インクルージョンの視座からの告発』 著者:鈴木文治 / 出版社:現代書館 / 発売日:2024年05月28日 / ISBN:4768459595 毎日新聞 2024年7月6日掲載
橋爪 大三郎
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