競争に疲れて「寝そべり族」に、中国Z世代の今 なぜ極端な行動に?流行語から読み解く社会
「何もしない」「消費しない」寝そべり族はなぜ生まれたか
中国では6~7月が大学の卒業シーズン。高考(ガオカオ)と呼ばれる厳しい大学入試や就職活動を経て、今夏から新社会人として働き始める若者が多いが、Z世代を中心とした彼らの間では、3年ほど前から「躺平」(タンピン=何もしないで寝そべる)、10年以上前から「裸辞」(ルオツー=転職先を決めずに仕事を辞める)が流行語になり、社会現象となっている。その背景には何があるのだろうか。 【写真を見る】中国、香港など主に東アジアの社会事情に詳しい中島恵さん 筆者が「躺平」という言葉を初めて目にしたのは2021年5月だった。筆者は頻繁に中国のSNSを見ているが、そこに突然、現れたのがこの言葉だった。「躺平」とはもともと「横たわる」「寝そべる」などの意味だったが、それが転じて「結婚しない」「最低限しか働かない」「消費しない」「何もしない」などの低意欲、低欲望のライフスタイルを指す言葉として登場した。 きっかけは同年4月。ある中国人が中国のコミュニティサイトに「寝そべり主義は正義だ」と書き込んだこと。この文章はすぐに削除されたものの、ネット上でバズり、肯定的に受け止められて、瞬く間に拡散された。 どうせ、がんばっても報われない(努力して勉強してもいい学校に入れないなど)なら、いっそのこと、何もしない方がよいではないか、と潜在的に考えていた人々がこの投稿に同調。「無気力でもいいんだ」と考えたのだ。 「自分も寝そべろう」「私ももう何もしない」と思う人が増え、大きな反響を呼んだ。あまりにも大勢の人がSNS上で「私も躺平する!」と書き込んだことから、その年の流行語になった。以来、3年以上が経つが、今もしばしば使われている。
衝動的に仕事を辞めてしまう「裸辞」
もう1つ、「裸辞」は2010年頃から使われ始めた言葉で、意味は「転職先を決めずに仕事を辞めること」。中国語で「裸」は「何もない」という意味で、以前、お金をかけない「裸婚」(ルオフン=何もなし婚、地味婚)という言葉が流行ったこともあった。 それと同じく、後先のことを何も考えずに仕事を辞めることをあらわす言葉として、最近、中国版Instagram と呼ばれるSNS「小紅書」(シャオホンシュー)などで再び注目され、若者の間で使われるようになっている。 「裸辞」は主に2種類に分けられる。1つは労働時間が長すぎたり、仕事のプレッシャーがあまりにも大きすぎたりして、それに耐えられないことから、すべてを投げ出して「裸辞」に至ること。もう1つは、職場環境がよすぎて(ホワイト企業すぎて)、逆に不安にかられ、目標を見失ってしまったことから退職に至るケースだ。 大手IT企業などでは過労死寸前まで働かされることがあるが、中小企業や一部の企業の中には、がんばらなくても十分やっていける企業もある。だが、がむしゃらに働いている同級生がどんどん出世していく姿などを見ると、「自分はこんな楽な企業に腰を落ち着けていていいのか」という気持ちになるようだ。多くの場合は1つ目の理由だが、衝動的に辞めてしまうという点では同じだ。