「占いのようなもの」…子どもの「遺伝子検査」は必要か?国が遺伝子検査の”規制”に消極的なある理由
「設計図」というより「部品リスト」…能力が全てわかると考えるのは間違い
民間企業が都内で運営する2つの私立保育園が、子どもの適性や才能などを調べる遺伝子検査を保護者に推奨・仲介していると、先月、毎日新聞が報じた。 「がん検査キット」で何がわかるのか? 自宅でできる遺伝子とマイクロRNAのがん検査を試してみた 遺伝子検査は香港の検査会社が提供するサービスで、検査料は1人あたり約9万円。2つの保育園は都内の高級住宅街にあり、運営会社社長によると約40人の園児のうち、3分の1ほどが遺伝子検査を受けたという。 この報道後、SNSでは‥‥‥、 「子どもは親の人形じゃないぞ」 「倫理的に問題ありでしょう」 「これはない。優生思想につながる」 「目の前にいる子どもの姿より、根拠のない検査の結果のほうが大事なのかね?」 と、批判的な声が上がっている。 子どもを対象にした遺伝子検査ビジネスは静かに広がっているようだが、子どもの能力や適性は遺伝子を調べてわかるものなのか。 「毎日新聞の記事に書かれていますが、信州大学特任教授で遺伝医学が専門の福嶋義光先生が『才能を調べる検査に科学的根拠はない』と指摘しています。信頼できる専門家の知見を、まず押さえておくべきでしょう」 そう話すのは、生命科学の社会的問題を研究対象とする工学院大学の林真理(まこと)教授だ。 「人間の才能、学習能力や身体的能力、感性などは、たくさんの遺伝子が相互に作用して初めて決まるものです。そこに今の遺伝学が踏み込めているかというと、まだまだ未知の領域が多すぎる。研究者に聞けば、正確なことはわかっていないと答えが返ってくるでしょう」 毎日新聞によると、遺伝子検査を申し込んだ保護者は保育園から検査キットを受け取り、子どもの唾液を採取して送付する。香港の検査会社がそれを解析し、アプリを通じて保護者に検査結果のリポートを届ける仕組みだという。 「本来、遺伝学の知識がない人に誤解や不安がないように検査の結果を伝えるのは、すごく難しいはずなんです。検査結果を渡して済むようなものではありません。医療機関での医学的な診断の場面では、医師と遺伝カウンセラーという専門職が存在しますが、消費者に直接提供される直販型遺伝子検査の場合は、遺伝情報の解析結果とその解釈を伝える体制がしっかり整っているかといった点に問題があると思います」 子どもの能力を調べるとする遺伝子検査キットは今、ネットでいくらでも購入できる。保護者の中には、検査結果で示された子どもの適性を鵜呑みにし、能力を伸ばそうと英才教育や習い事をさせる親もいるかもしれない。逆に、この子には能力がないと決めつけ、子どもの才能の芽を摘んでしまう親が出てくる可能性もある。 「『遺伝子は生物の設計図』という言い方をされますが、遺伝学の研究者の間では非常に誤解を招きやすい表現だと言われています。『設計図』というより『部品のリスト』のようなもので、遺伝子がわかれば能力が全てわかると考えるのは間違いです。能力を調べると謳う遺伝子検査の判定は、占いのようなものと捉えたほうがいいかもしれません」