「占いのようなもの」…子どもの「遺伝子検査」は必要か?国が遺伝子検査の”規制”に消極的なある理由
「遺伝子検査ビジネスは子どもの教育について真剣に悩む親の不安につけ込む商売」
「もう一つ重要な論点として、能力主義社会の問題があると私は考えています。 子どもの遺伝子検査をするということは、子どものスペックを調べて最適なパフォーマンスを発揮できるように、親が子どもの教育環境をチューニングしようとしているわけです。親は子どものためを思ってやるのでしょうけど、子どもの能力を調べて伸ばそうとすることが、子どもの幸せにつながるとは限りません。 でも親は、能力を伸ばすことが子どもの幸せのためだと思い込んでいる。親がそれほど能力にこだわるのは、日本が能力主義の社会だからです」 親であれば我が子の未来は明るくあってほしいと願うのは当然だが、子どもの人生は子どものもの。子どもは親の思い通りには育たない、とはよく言われることだ。 「親は誰しも、この育て方でいいのだろうかと多かれ少なかれ不安を抱えているものですよね。遺伝子検査ビジネスは、子どもの教育について真剣に悩む親の不安につけ込むような商売だと思います。 本来、子どもと毎日接している親は、我が子が何に関心があって何が苦手なのかを一番よく知っているはずです。それを遺伝子検査で調べるというのは、親の役割を外注しているようなものです。 子育ての負担を軽減するための外注はもちろんあっていいと思いますが、遺伝子検査が果たして外注する項目にふさわしいと言えるでしょうか」 今後、子どもを対象にした直販型の遺伝子検査サービスが発展していくと、今以上に親の認識が重要になってきそうだ。 「この先、もし仮に一般向け遺伝子検査に関して信用性のある情報が出てきたとしても、だからといって子どもの才能の遺伝子検査を有益だと認めて推進する状況にはならないと思います。 そもそも子どもの権利の問題があります。また、人を遺伝子検査に駆り立てるような状況を生じさせている社会のままで本当にいいのかどうか。能力はどうあれ、子どもが自分の意思で選んだ道を進むことが大事であり、それが子どもにとっても親にとっても幸せなことと誰もが思える社会であれば、遺伝子検査などいらないかもしれません。 望ましいのは、子どもの才能を調べるために遺伝子検査をすることが無意味に感じられるような社会ではないでしょうか」 林真理(はやし まこと) 工学院大学教育推進機構教授。東京大学教養学部卒業、東京大学理学系研究科修了。2015年より現職。共著に『技術者の倫理』(コロナ社)など。 取材・文:斉藤さゆり
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