「エウロパ」の海に供給される酸素は少ない? 「ジュノー」のデータに基づく研究
木星の衛星「エウロパ」は、内部に広大な海が広がっていると考えられている天体の1つです。海には表面の氷が分解して生じた酸素が供給されていると考えられているため、酸素呼吸を行う生命がいれば貴重な供給源となっている可能性があります。しかし、エウロパの酸素発生量は推定するためのデータが乏しく、推定される最小値と最大値との間で1000倍もの幅がありました。 プリンストン大学のJ. R. Szalay氏などの研究チームは、NASA(アメリカ航空宇宙局)の木星探査機「ジュノー」の観測データに基づき、エウロパ表面での酸素発生量を推定しました。その結果、酸素発生量は毎秒6~18kgであると推定されました。これは比較的少ない発生量となり、酸素呼吸を行う生命にとっては不足であるかもしれません。
■「エウロパ」の海には酸素が供給される?
木星の衛星「エウロパ」は、地球の月よりも小さな衛星ながら長年注目を集めている天体です。表面全体は氷で覆われていますが、その内部には豊富な液体の水で構成された海が存在すると考えられています。その規模は地球の海よりもずっと大きいと考えられています。 海があれば、独自の生命が誕生している可能性があります。もしもエウロパに独自の生命がいるとすると、それは地球の深海底と似た環境に生息している微生物に似ているかもしれません。そのような生命は、海底から湧き上がる高温の熱水と、それに含まれる無機物を代謝して活動します。光が届かない深海という光合成に頼れない環境に適応しているため、光合成の過程で生じる酸素を必要としていません。 しかしこの前提は、酸素を必要とする生命がエウロパに全く存在しないことを意味するものではありません。エウロパの表面には薄い大気しかなく、宇宙空間に存在する荷電粒子(電気を帯びた粒子)が高速で氷に衝突します。すると、氷を構成する水分子が分解され、水素や酸素の分子や原子が放出されます。仮に、酸素分子が宇宙空間に接する氷の最表面ではなく氷の内部で生じた場合、宇宙空間に逃げ出しにくくなるため、やがて内部の海へと取り込まれることとなります。 もしもこのプロセスによる酸素分子の発生量が多ければ、光合成に頼らずとも、酸素呼吸する生命を維持することができるかもしれません。しかし、エウロパの酸素発生量を推定することは困難であり、これまでの研究では毎秒0.3~300kgと、発生量の推定値に1000倍もの差がありました。