「エウロパ」の海に供給される酸素は少ない? 「ジュノー」のデータに基づく研究
■海に供給される酸素の量は少ないと推定
Szalay氏らの研究チームは、NASAの木星探査機「ジュノー」の観測データを元に、エウロパの酸素発生量を推定しました。ジュノーの観測機器には荷電粒子を観測するものがあり、エウロパの接近時にはエウロパから逃げ出す荷電粒子、つまり氷の分解で生じた物質を検出できます。これは以前の木星探査機では取得できていないデータでした。 Szalay氏らは、ジュノーの観測データに電気を帯びた水素原子と酸素原子が含まれていることを確認し、そこから酸素分子の発生量を推定しました。Szalay氏らは水素の放出量から、エウロパ表面での酸素発生量を毎秒6~18kg(12±6kg/s)であると推定しました。これは比較的小さな値です。しかも、これは表面での発生量であり、海へ供給されていく量ではありません。海へ供給される割合は不明なものの、最大でも毎秒18kgという発生量は、かなり小さな供給量であることを間接的に示しています。 そして、エウロパ表面で分子の離脱について、これまでの予想とは異なるプロセスが起こっていることも判明しました。水素分子の離脱は、これまで局所的に表面温度が高い場所で発生している熱的離脱がメインであると考えられていました。しかし、今回測定された水素分子の平均速度は、熱を伴わない離脱がメインであることを示しています。その詳細は今回の研究では不明なままです(※)。エウロパ表面で起こるプロセスをより深く知ることは、酸素分子が海に供給される量についての考察をする上でも欠かせないでしょう。 ※…荷電粒子が分子に衝突して直接叩き出すスパッタリングや、氷を流れるわずかな電流によって生じる熱によって分子の運動が活発になるジュール熱などが推定されています。 今回の研究を見る限りでは、エウロパに独自の生命がいたとしても、酸素呼吸を行うものはかなり少ないか、存在しないかもしれません。また、エウロパ以外にも氷の下に海があると予測される天体は複数あるため、海の環境の推定に影響する可能性があります。 Source J. R. Szalay, et al. “Oxygen production from dissociation of Europa’s water-ice surface”. (Nature Astronomy) D. C. Agle, et al. “NASA’s Juno Mission Measures Oxygen Production at Europa”. (NASA Jet Propulsion Laboratory)