日本の精鋭演劇人が集って「デカローグ」の舞台化に挑戦、いよいよ最終章に突入!
さいわい再び姿を現したエルジュビェタとゾフィアは、ふたりサイド・バイ・サイドで集合住宅がずらりと数棟並ぶ風景を当惑げに見上げる。 「変わったアパートですね」「そして変わった人たち」 さらにもう一度見上げて、「変わった国」とつぶやく。ここに至ってついに、集合住宅という無人格化された神の視点が、そこにうごめく人々――ここではエルジュビェタとゾフィア――の目線を借りて転移し、映画とは異なる演劇にとっては絶対に不可能であるはずのショット/リバースショット(切り返しショット)が仮構されてしまう瞬間に、私たちは立ち会うことになるのである。 その切り返しショットとは何だったのか? そう、それは登場人物と、実際には彼らには見えていないはずの「第四の壁」たる客席とのあいだで交わされたショット/リバースショット(切り返しショット)である。おもむろに客電が薄ら暗く点灯し、女性二人は私たち客席の群衆を見上げる格好となる。今回の壮大プロジェクト「デカローグ」で起きたこととは、不可能であるはずのショット/リバースショット(切り返しショット)を仮構しつつ、舞台を見ているはずの私たち観客を登場人物が見返すことであり、私たち観客は、この巨大作品の主人公たる集合住宅の建築物そのものへと転化させられる形となったのである。このような異様な試みによって、私たちは、知らず知らずのうちに作品内へと吸収されていたわけである。物語環境への観客の吸収というこの事態に、私たちは大いに戦慄すべきである。 文=荻野洋一 制作=キネマ旬報社
【『デカローグ7~10』[プログラムD ・ E 交互 上演]公演概要】 【公演期間】2024年6月22日(土)~7月15日(月・祝) 【会場】新国立劇場 小劇場 【原作】クシシュトフ・キェシロフスキ、クシシュトフ・ピェシェヴィチ 【翻訳】久山宏一 【上演台本】須貝 英 【演出】上村聡史/小川絵梨子 デカローグ7 『ある告白に関する物語』 演出:上村聡史 出演: 吉田美月喜、章平、津田真澄/大滝 寛、田中穂先、堀元宗一朗、 笹野美由紀、伊海実紗/安田世理・三井絢月(交互出演)/亀田佳明 デカローグ8『ある過去に関する物語』 演出:上村聡史 出演:高田聖子、岡本玲、大滝 寛/田中穂先、章平、堀元宗一朗、笹野美由紀、伊海実紗/亀田佳明 デカローグ9 『ある孤独に関する物語』 演出:小川絵梨子 出演:伊達 暁、万里紗、宮崎秋人/笠井日向、鈴木将一朗、松本 亮、石母田史朗/亀田佳明 デカローグ10『ある希望に関する物語』 演出:小川絵梨子 出演:竪山隼太、石母田史朗/鈴木将一朗、松本 亮、伊達 暁、宮崎秋人、笠井日向、万里紗/亀田佳明
キネマ旬報社