日本の精鋭演劇人が集って「デカローグ」の舞台化に挑戦、いよいよ最終章に突入!
デカローグ7『ある告白に関する物語』ではマイカ(吉田美月喜)とその母エヴァ(津田真澄)の長年の確執がとうとう決裂へと向かい、デカローグ8『ある過去に関する物語』では大学教授ゾフィア(高田聖子)の過去の罪悪感がアメリカ在住の女性エルジュビェタ(岡本玲)の訪問によってあぶり出され、デカローグ9『ある孤独に関する物語』ではロマン(伊達暁)とハンカ(万里紗)の夫婦関係はハンカの不倫によって深傷を負う。そしてデカローグ10『ある希望に関する物語』ではアルトゥル(竪山隼太)とイェジ(石母田史朗)の兄弟が父の残した膨大な切手コレクションによって罠にかかったかのように、滑稽な愚行のスパイラルにはまっていく。 一話ずつ独立した物語とはいうものの、各話のあいだにかすかな繋がりが見え隠れして、観客を楽しませもする。デカローグ8のゾフィアの倫理学授業で女子学生が披露する逸話は、デカローグ2で夫以外の男とのあいだにできた子を堕すかどうか悩むドロタ(前田亜季)の話がおそらく集合住宅中で醜聞になったということだろうし、デカローグ10で切手コレクションを遺して死んだ兄弟の父は、デカローグ8のゾフィアの友人として登場した切手コレクター(大滝寛)のことであることが明らかだし、その隣にはデカローグ9の不倫妻ハンカが住んでおり、兄弟に対してお悔やみを述べたりする。
デカローグ7『ある告白に関する物語』の主人公マイカ(吉田美月喜)と厳格な母エヴァ(津田真澄)の対立は、まるでスウェーデンの巨匠イングマール・ベルイマンの映画のように胸が締めつけられる。親子愛はあったはずだが、それがどこかへ行方不明となってしまっている。そしていま、この母娘の対立のはざまでマイカの6歳になる娘が、大人たちの精神状態に振り回され、無為な移動をさせられ、勝手な都合で「もう寝なさい」とむりやり寝かしつけられる。デカローグ7は十戒では「汝、盗むなかれ」。さて、ここではいったい何が盗まれているのか。――おそらく、子どもが受けるべき愛と慈しみ、そして子どもが子どもらしく生きていける時間そのものが盗まれているのだろう。