生成AIのビジネス活用、第一歩は「何を実現したいか?」から AWSが国内先進事例を多数披露
アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWSジャパン)は、生成AIサービスと国内企業への支援策に関する説明会を開催した。既に多くの企業が、AWSを通じて、生成AIを活用したビジネスの加速や効率化に着手しているという。 【もっと写真を見る】
アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWSジャパン)は、2024年10月31日、生成AIサービスと国内企業への支援策に関する説明会を開催した。 同社のサービス&テクノロジー事業統括本部 技術本部長である小林正人氏は、「日本でも既に多くのお客様が、AWSを通じて、生成AIを活用したビジネスの加速や効率化に着手している」と説明。加えて強調するのが、生成AIの活用は始めに「何を実現したいか?」を考えることが大切ということだ。 「生成AIはあくまで手段であって目的ではないため、何をしたいかをイメージすることが非常に重要」と小林氏。AWSジャパンでは、このイメージを持ってもらうための支援策と、イメージを実現するための生成AIスタックを提供している。 生成AIスタックとして提供するのは、AWSのアプリケーションに生成AIを組み込んだ「Amazon Q」(日常業務向けのAmazon Q Businessは2024年内に国内展開予定)、生成AIを支えるAIモデルの開発や実行のための各種インフラストラクチャ―、そして、既存の生成AIモデルを利用してアプリケーションを開発するための「Amazon Bedrock」だ。 説明会では、「生成AIで実現したいこと」を具現化した、国内の先進ユースケースおよびAWSジャパンの支援策の現状について紹介された。 生活サービスから社会インフラ、業務の現場まで、各領域の課題を解決する国内先進ユースケース 説明会で披露されたのは、各領域の課題を解決するための生成AIのサービス適用、もしくは生成AIによる効率化の取り組みである。 まずは「生活に身近なサービス」における事例だ。例えば、料理レシピの動画サービスの「クラシル」、家計簿アプリの「おカネレコ」、メディアプラットフォームの「note」、生協宅配の「パルシステム」などで、生成AIの実装が進んでいるという。 詳しく紹介されたのが、レアジョブテクノロジーズの「レアジョブ英会話」の取り組みだ。オンライン英会話では、受講者に対してレッスン後にフィードバックレポートを送るが、1日に複数のレッスンを受け持つ講師にとってはこのレポート作成が大きな負担になっていた。そこでレアジョブ英会話では、Amazon Bedrockを用いたレポート作成の自動化に取り組んでいる。 具体的には、生成AIがレッスン内容を文字起こした上で、修正すべきポイントなどが含まれたレポートを自動生成する。講師は、このレポートを適宜修正するだけで済むようになる。「AWS内に閉じた形で、生成AIをサービスに組み込んでいるため、セキュリティやガバナンスのレベルを下げずに展開できている」と小林氏。 続いては「社会インフラ」における事例だ。時間外救急プラットフォームの「ファストドクター」では保険証の読み取り機能に、岩崎電気では道路状況の監視に、アーベルソフトでは災害監視にと、社会課題を解決するための生成AI活用も増えているという。 詳しく取り上げられたのが、Pleapの提供するカルテ作成の支援ツール「medimo」の事例だ。診断内容を詳細に記録するカルテの作成は、医師にとって「タフな業務」(小林氏)である。2024年4月から医師の時間外労働の上限が設けられたこともあって、カルテ作成の効率化は喫緊の課題となっている。 Pleapでは、Amazon SageMakerとAmazon Bedrockを活用して、患者と医師の会話内容から、特定のフォーマットにのっとってカルテの文章を生成する機能を実装している。従来、診断をしながらだと1~2割程度しか残せなかった記録が、この仕組みで7割程度まで記録できるようになったという。 次は「専門家の業務を支援する」事例だ。アイ・アイ・エムにおけるインフラエンジニアのシステム運用・障害対応から、JDSCにおける海運産業の専門的問い合わせ対応、北海道文化放送におけるニュース原稿の生成まで、専門的な知見が求められる領域でも生成AIの活用が進んでいる。 披露されたのは、パテント・リザルトにおける特許解析の事例だ。技術を用いるビジネスでは、既存特許を把握する必要があるが、膨大な特許情報を解釈するのに時間を要していたという。 パテント・リザルトでは、特許分析ツール「Biz Cruncher」において、特許情報から技術的背景や課題、解決手段などを要約してくれる機能を実装。視覚的なコンテンツも生成できるモデル(Claude3.5 Sonnet)を用いて、図解での解説も実現している。同機能によって、特許を把握するのに要する時間を約80%削減しているという。 次は、働き手が不足している「現場の業務効率化」の事例だ。日立パワーソリューションズでは製造現場における設備情報検索に、SBI新生銀行では法人営業向けの活動記録に、三井物産では入札仕様書の解析に、それぞれ生成AIを活用している。 i Smart Technologiesが取り組むのが、IoTデータの解析効率化だ。IoTデータ収集サービス「iXacs」とAmazon Bedrockを用いて、蓄積したIoTデータを生成AIが解釈し、自然言語で説明する機能を実装した。これにより、現場監督がデータ分析に費やしていた時間を70%以上削減して、生産現場におけるカイゼン活動を推進している。 最後に紹介されたのが、生成AIにクリエイティブな業務を任せて「新たなビジネスを創出する」取り組みだ。 中小企業や個人事業主向けのホームページ作成ツール「ペライチ」では、生成AIが最適なホームページを自動生成する「ペライチクリエイトアシスタント」機能を開発している。外注されることが多いホームページ作成の工数とリードタイムを削減できる機能で、現在無料モニターを展開中だ。Amazon Bedrockを使い、AWSのプロトタイピングチームの支援も受け、約5か月で実装したという。 生成AIで「何を実現したいか?」に寄り添うAWSジャパン独自の支援策 AWSでは、顧客の「何を実現したいか?」を支援する各種の取り組みも行っている。 2024年7月に公開した「生成AI Contents Hub」は、AWSの生成AIサービスの概要や使い方に加えて、業界や目的別のユースケースを見つけることができるポータルサイトだ。GitHubで公開している「Generative AI Use Cases JP」では、実施に触ってみないとイメージが湧かないというユーザー向けに、すぐにトライアルできる生成AIアプリをユースケースごとに公開している(要AWSアカウント)。 生成AIの開発支援も含むプログラムも展開している。2024年7月には、「生成AI実用化推進プログラム」の応募受付を開始(参考記事:AWSが国内の生成AI開発・活用企業を募集 目標設定から寄り添う“実用化”支援プログラム)。「生成AIモデルを開発する企業」および「生成AIモデルを利用する企業」を支援するプログラムで、戦略策定から本番環境での活用に至る過程で、AWSとパートナー企業による様々なサポートが受けられる。その中には、開発の負荷を軽減する、総額で1000万米ドルのAWSサービスクレジットの提供も含まれる。 同プログラムの当初の目標は50社の参加であったが、現在60社以上の申し込みがあるといい、リクエストに応じて受付を11月22日まで延長中だ。 また、経済産業省とNEDOが、日本の生成AIモデルの開発底上げを目的にとして進めるプロジェクト「GENIAC」の第2期では、計算リソースの提供者として協力。採択された20団体のうち13団体が、AWSを利用してモデルを開発中だ。「生成AIを使って薬を作る、自動運転に必要なテクノロジーを作る企業もあれば、アニメーション制作の現場を効率化することに挑戦している企業もいる。単に日本語に適したモデルを作るところから一歩進んで、具体的な課題を解決するモデルを作るところまで来ている」と小林氏。 最後に、小林氏は昨年のAWS re:Inventにおける本社CTOの発言を紹介。「『我々は、良いことのためにAIが使われることを推進していく』という言葉の通り、AWSジャパンも、様々な課題を解決することを目指すお客様を全力で後押ししたい」と締めくくった。 文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp