富士山も直面する世界遺産のジレンマとは
4月30日、富士山(山梨県、静岡県)の世界遺産への登録が適当だとする勧告が出て、6月に正式に登録される見通しとなりました。世界遺産「当確」を受け、ゴールデンウイークの富士山周辺は例年以上の観光客で賑わいました。観光客の増加は地元経済を潤す一方、環境負荷の問題がこれまで以上に深刻化する可能性があります。観光振興と世界遺産に本来求められる環境保全を、どう両立するかが問われています。
富士山が抱える大きな課題のひとつに、訪問者数増加による環境負荷の高まりがあります。これは、多くの世界遺産が直面する問題でもあります。深見聡長崎大学准教授は「環境保全と観光振興のジレンマ ―屋久島を事例として―」という2011年12月の論文で、「遺産に登録されてしまったが故に、保護はおろか劣化を招くというジレンマ」を指摘しました。
環境省によると、2012年7~8月の富士山への登山者数は31.9万人と、一昨年と比較して8.6%伸びました。登山期間に各登山道五合目へは約120万人、山麓部へは年間で約1600万人が訪れます。訪問者増による経済効果が期待される一方、4月の勧告でも、さらなる開発や、増加が見込まれる来訪者を管理する戦略が緊急に必要だと指摘されています。 富士山周辺では、官民が連携した環境保全の取り組みが行われてきました。たとえば、登山道沿いでのゴミ散乱や、山麓への不法投棄問題。清掃活動、ゴミ持ち帰り運動、パトロールなどが実施されていますが、回収される散乱ゴミは年間数トンにおよぶそうです。夏場には渋滞緩和と自然環境保全のためにマイカーの乗り入れ規制が行われているほか、トイレのし尿処理問題に対応するため、環境に配慮したトイレも設置されています。 環境保全を目的として、いま議論されているのが「入山料」をとる案です。 静岡県の川勝知事は2月25日の記者会見で、7月1日の山開きにあわせて試験導入する意向を示しました。山梨県の横内知事は「(世界遺産になることで、これまで以上に)保全を強化していかなければならない。それに要する財源の一部に充てるために登山している方々のご負担をお願いする」と、5月15日の記者会見で語っています(引用は山梨県ホームページ)。ただ、具体的な使用目的や料金などの合意はこれからです。 入山料には、徴収方法や人件費をどうするのかといった課題が指摘されているほか、観光客の減少などへの懸念の声も出ています。入山料について深見准教授は、「払う人にきちんと理解してもらう場が必要。まずは屋久島での事例なども参考にして、ゆるやかな協力金といった形で始め、効果を見て見直していくべきでは」と話しています。 富士山の環境保全と観光振興のバランスをいかにとって世界遺産としてふさわしい姿を残していくのか。富士山もまた、各地の世界遺産と同じ課題に直面しています。