「額にタトゥー」の母親兼インフルエンサーが語る、我が子を学校に通わせない「アンスクーリング」の是非 米
コロナの後、自宅学習者が急増
コロナの後、自宅学習者が急増した。保護者は授業のようすを垣間見て、『これなら自分でもできる』という風に感じた アンスクーリングの動向に着目し、数々の研究を行ってきたライリー教授は、こうした人気急増の要因がパンデミックにあると考えている。パンデミック中、保護者は子どものリモート学習に積極的に関与せざるを得なくなった。「コロナの後に自宅学習者は急増しました」とライリー教授。「保護者は学校生活や授業のようすを垣間見て、『これなら自分でもできる』という風に感じたんでしょう」(自宅学習の規制は州によってまちまちだ。多くの州ではテストを受け、何らかのカリキュラムに従うことが義務付けられているが、そこまで厳しくない州もある)。 だが自宅で子どもたちとリモート学習を始めるや、一部の保護者は「家で学校と同じことをするのは無理だ」と気づいた。そして教師としての役割から、「学習を促す」立場へとシフトチェンジし、結果的に自律的な学習モデルに流れていくようになったとライリー教授は説明する。また当然と言えば当然だが、アンスクーリングを支持する背景には自分を正当化する意味合いもあったとグレイ氏は言う。自宅学習は困難で骨が折れるため、おそらく保護者もうんざりし、やる気をそがれ、あるいは従来の教師の役割を果たすことができないと感じ、積極的に関与できない「罪悪感」を軽減するためにアンスクーリングのコミュニティに傾倒していったのではないかとグレイ氏は言う。 「『自宅学習をやってはいるけれど、学校で教えているようなことはできない』と感じていらっしゃるのでしょうね」とグレイ氏。「そんな時にアンスクーリングという言葉に出くわし、実際に実践している人たちと共感して、肩の荷が下りる。ある種の免罪符のような感じですね」。 これまで自宅学習というと、宗教上の理由からあえて我が子を学校以外の場所で教育させている保守的なキリスト教徒が大多数を占めている、というのが通説だった。だが自宅学習の普及にともない、そうした図式はもはや当てはまらなくなったとライリー氏は言う。「以前は自宅学習といえば、中上流階級の白人のふたり親世帯がやることだと言われていました」とライリー氏。「今は80~90年代の時とはまったく様相が違っています」。 同じことはアンスクーリングにも言える。アンスクーリングの盛り上がりとともに多様化が進み、とくに黒人世帯の場合、「広い意味での黒人解放運動」の一環としてアンスクーリングに共感を寄せているとグレイ氏は言う。子どもに自宅学習をさせる余裕があるのは中上流階級だけ、という通説とは裏腹に、アンスクーリングを実践する世帯はえてして社会経済階層が比較的低いという。「こうした手法を選ぶ人々人は物質的な価値にとらわれません」とグレイ氏は語る。「一般的な意味での成功――ステータスのある高収入の職業にはあまり関心を示しません。彼らが望むのは自立です。おうおうにして庭付きの家に住み、家庭菜園をして、比較的シンプルな暮らしをしています」(「ヒッピー」のような人かと尋ねると、全員が全員そうではないにしても、アンスクーリングを実践する保護者の多くが「そうだと考えてもあながち間違いではない」とグレイ氏も認めた)。 グレイ氏をはじめ取材した専門家の意見では、アンスクーリングの実践者は政治的思想の点でも幅広い傾向が見られる。とはいえグレイ氏の話では、大半はどちらかというとリベラル寄りで「個人の自由」を重視する人々だそうだ。たしかにアンスクーリング実践者と反体制的な思想の支持者はダブるところがある。アンスクーリングを実践する保護者の中には、反ワクチン、反政府的な思想をソーシャルメディアで拡散している者も多い。 一部の子どもには、こうした自律型学習が明らかにプラスの効果をもたらしている。アンスクーリングの研究者ジーナ・ライリー氏の息子、ベン・ライリー氏がまさに好例だ。彼は幼少期から中高生まで学校に通わず、「生活の中で学んだ」そうだ。正規に数学や読み書きを教わったことはなく、お手伝いで買い出しの予算を書き出して計算の仕組みを覚えたり、石のコレクションが嵩じて地理に興味を持ったりした。現在は編集者と音楽教師の二足のわらじを履くベン・ライリー氏は、「何かを学んで、あとから実生活での応用を身に着ける必要はありませんでした」とローリングストーン誌に語った。「成長する中で、ごく自然な流れで知識がついていった。今になって、とても感謝しています」。 近隣住民や親族から批判されつつも、ベン・ライリー氏は不登校生活を楽しんでいたそうだ。中高生のころ公立学校に通おうかと考えたことも一時あったが、結局アンスクーリングを続けた。「社会の風当たりは冷たいです」と同氏は言う。「人はみな未知のことを恐れますからね」。地元の学区で修了書を取得した後、ニューヨークのアライアンス大学で音楽学の学位を、ニューヨーク市立大学ハンター校で音楽教育学の修士号を取得し、本人がいうところの「ごく普通のまっとうな人間」になった。 「自宅学習やアンスクーリングは1日中家にこもり切りで、外の世界とのつながりがないと思われがちですが、自分の経験上、真実とはまるでかけ離れていると言えると思います」と本人は言う。「自分は論理的思考をものすごく大事にしていますし、個人的にはアンスクーリングや自宅学習がそれを強化してくれると思います。実社会に身を置き、多種多様な考えや意見、信念につねに触れていますからね」。