ペニンシュラ・ホテルが現オーナー 石油王が好んだ特注オースチン・タクシー(2) 日産リーフの部品でEV化
現在のオーナーはザ・ペニンシュラ・ロンドン
石油王のヌバール・グルベンキアン氏がオーダーしたタクシーには、ロールス・ロイスのエンジンが載っていたという記述が見られるが、これは違うだろう。オースチンを傘下にした、BMCのガソリンかディーゼルだったのでは、と筆者は考えている。 【写真】石油王が好んだ特注オースチン・タクシーとメルセデス・ベンツ600 同時期の英国車 も (163枚) 合計3台が作られ、今回ご登場願った1台は、778 XUCのナンバーで登録され1966年に納車。彼の没後、1970年代初頭にアメリカ・カリフォルニア州へ運ばれ、左ハンドルへ変更されたようだ。 2015年に、フォードの直列6気筒エンジンと4速マニュアルへ換装されるが、それ以外はほぼオリジナル状態が保たれてきた。走行距離も、殆ど伸びなかったようだ。 当時、競売を仲介したボナムズ・オークションは、778 XUCが現存する唯一の、ヌバール特注のタクシーだと主張していた。友人のため注文した可能性があると説明もしているが、その事実を確かめることは難しい。 現在のオーナーは、ロンドン・ハイドパークに新しくオープンした高級ホテル、ザ・ペニンシュラ・ロンドン。ロールス・ロイス・ファントムIIなどを含む、13台の特別なハイヤーの1台として管理されている。 ボディは同グループを象徴するペニンシュラ・グリーンに塗られ、ゴールドのピンストライプがあしらわれた。「最も個性的で遊び心のある選択」だと、ホテル側はラインナップに加えた理由を説明する。
日産リーフの部品を利用しバッテリーEV化
ペニンシュラ・グループは、フランス・パリではシトロエン2CV、タイ・バンコクではトゥクトゥク、フィリピン・マニラではジプニーなど、現地にちなんだハイヤーを擁することで有名。それらと同様に、日産リーフの部品でバッテリーEV化されている。 電動化を手掛けたのは、ロンドン・エレクトリック・カーズ社。もっぱら、ロンドン中心部での短距離移動に利用されているそうだ。 レストアを手掛けたのは、英国のアシュトン・ケインズ・ヴィンテージ・レストレーションズ社。6年間を費やし、格納式ルーフなどオリジナルの特徴を保ちながら、右ハンドルへ戻された。 ステアリングホイールは大きく、その奥のメーターもオースチンFX4へ忠実。前列は助手席がなく、運転席のみ。スペアタイヤが、カバーに包まれ左側へ載っている。サイドウインドウは手動。運転席側と後席側の間には、ガラスの仕切りが備わる。 リアシートはクッションが厚く、ウェスト・オブ・イングランド社製の上質なクロスで仕立てられている。まだ真新しく張りが強いが、もう少し馴染めば、しっとりお尻を包み込んでくれるだろう。頭上空間にも余裕が出るはず。 太いリアピラーには、ガラス製の花瓶。ドアパネルの綱状のハンドルが面白い。 見た目は少々煩雑かもしれないが、車内は静かで清潔。極めて静寂に走る、バッテリーEV化は正解だったように思う。都心部での短距離移動という点では、確かにメリットが大きい。ヌバールが生きていたら、エレクトロモッドには納得しただろうか。