学習塾の自粛で“居場所”失う子たち
新型コロナウイルスが広げる、無料塾の危機
話をステップアップ塾に戻そう。 当塾は有志による寄付が前提のため、年間を通じて指導ができる塾生は毎年30~50人ほどであるが、子どもたちの心に寄り添う指導を心がけているため都立上位校等への合格実績も多く、近年では20人ほどのキャンセル待ちが出ることも珍しくない。
また、ボランティア講師として集まる学生は早稲田大や上智大、お茶の水女子大や東京大の大学生に加えて都立上位校や開成・海城高校などに通ういわゆる将来の「エリート候補生」だ。ボランティアへの参加理由も人それぞれだが、学生期間の全てにおいて毎週参加してくれる講師も多く、それに応えるかのように、元塾生が講師として戻って来る教育の循環もみられるようになった。 そんなボランティア講師が年間百人以上集う当塾ではあるが、4月7日に政府が発令した「緊急事態宣言」や、それを受けた小池百合子都知事による休業自粛要請は、当塾にも大きな影響を及ぼしている。 学校側からは、ボランティア学生に活動自粛が通達され、築き上げた循環教育の連鎖が断たれてしまう恐れが生じ、寄付金の減少も目に見えてきたのだ。 当塾は今、運営の危機を迎えている。
リモート時代でも、物理的「居場所」は大切
ただし現状、予算を理由にして子どもたちにとっての学びの機会を狭めることは、新たな教育格差を生み出すことにもつながる。 そこで当塾は、数年前から準備を進めて来たインターネットによる遠隔指導を、今年度の開塾予定日となる4月16日に合わせて、スタートさせることにした。学校も営利の塾も、急速にリモート学習導入に舵を切り始めたことが大きな理由だ。
技術革新は喜ばしい。ただし繰り返すが、家庭環境に問題のある子どもたちにとって必要なのは、決して技術的な学習環境だけではない。周囲から干渉されにくい、学習スペースと心の安全基地こそが大切な「キモ」なのだ。 「居場所の確保」のため2018年から当塾がスポンサー企業や新宿区と共に整えた、西新宿に設置するわずか18平米ほどのトレーラーハウス自習室も、せっかく通信環境を備えているにも関わらず、「3密」を避けるための行政判断にて閉鎖を余儀なくされている。 また保護者が子どものゲーム依存対策として、敢えてインターネット環境導入に対して否定的な立場を取る場合も少なくないため、たとえ教材や通信費を含むインフラが全て整ったとしても、教育格差の渦中にある子どもたち全てをフォローできるわけではない現実が、この国にはある。無料塾の運営者として、苦悩は続く。