学習塾の自粛で“居場所”失う子たち
貧困家庭だけではない SOSを出せない子どもたち
社会に文句を言いながらも、むしろ他人に迷惑をかけることに無頓着な父を見て育ったからであろう。私は2008年、偏差値の向上だけでなく、人や社会に目を見開かせる「心の教育」を掲げたNPO法人を立ち上げた。14年からは食事つきの個別指導型無料塾「ステップアップ塾」を東京・新宿区内で設立することができた。 受け入れる生徒は、家庭に事情を抱える小・中学生で、日本語での読み書きができれば居住地や国籍は問わない。毎週木曜に行う個別の学習指導は基本的に教材費も食費も原則全て無料。家庭の状況などに応じて月2000~4000円をいただくこともある。
設立の動機には、自分の成長過程の中で逃げ場になった「塾」と「外食」の体験が強く影響している。また、いつの間にか家庭の経済格差だけに焦点を当てた「子どもの貧困」問題だけが注目されるようになった世情に強い違和感を覚えているからだ。加えて、大人の事情で教育格差の渦中に巻き込まれたにも関わらず世間からは自業自得論で片づけられがちな「今、救いを求めている子どもたち」が気の毒だから、である。 ただ経験上言えることだが、多くの子どもは親を気遣えば気遣うほど他人へのSOSは出さないし、ましてや「俺には学びの機会が少ないんだ!」なんて、恥ずかしくて声を上げることもできない。 どこのDV(家庭内暴力)家庭でも家に隠された暴力が一つの解決を迎える時は「(殺人などの)事件が起きた時」や「暴力をふるう相手から、暴力をふるわれる側が独立することができた時」など極端な事例だ。表に出ないケースは多く、そのような家庭環境下では勉強どころの話ではないと言える。 大袈裟ではなく、私も父を何度殺そうと思ったことか、分からない。 母や自分が殺されると思った回数は、もっと分からない。 世界中で猛威を奮うコロナウイルス禍に伴う企業の活動自粛や自宅待機命令の重要性はもちろん理解している。しかし同時に家に待機させられることで家庭内暴力が増え、戦争状態のような環境で学びの機会を失っている子どもが多い現実に、我々大人はもっと目を向けるべきではないだろうか。