タコやイカはなぜ驚異の変身能力を獲得した? 色覚がないのに色も形も一瞬で変化
完璧な伴侶をゲットする
コミュニケーションをする仲間のなかで、将来の伴侶以上に大切な相手などいるだろうか? メスに好印象を与えるために、ワモンダコのオスは体の色を白っぽくして黒い縞模様を走らせ、アメリカアオリイカのオスは暗赤色になる。 オーストラリアコウイカの体の小さなオスは、自分より大きいオスが近くにいるときにはメスに相手にされないため、体の色や姿勢を変えてメスになりすましてメスに近づき、交接する。コウイカの中には、外套膜の半分にメスに対する求愛の模様を、もう半分にはライバルのオスをだますような模様を同時に表すトガリコウイカ(Sepia plangon)のような種もいる。
頭足類の「思い」は皮膚に?
科学者たちは、タコの体の色や形や質感が何らかの目的を達成するために変化しているように見える興味深い事例を数多く観察しているが、ほかの生物を意識的に模倣しているのかどうかなど、シグナルの背後にある意図を特定することはできていない。 そんな中、米コロンビア大学で頭足類の神経科学を専門とするテッサ・モンタギュー氏は、頭足類の皮膚の色や模様の変化を利用して、彼らの頭の中で起きていることを研究している。例えば、頭足類が捕食者から逃げるときに威嚇するような模様を見せたとしたら、それはおそらく脳の活動に対する不随意反応(意思とは関係なく、体が勝手に動く反応)だと彼女は言う。頭足類の皮膚は、彼らの恐怖や、ストレスや、攻撃性や、交接への欲求を反映しているのかもしれない。 頭足類が夢を見るかどうかの研究に、眠っているタコの体がさまざまな色に変化する映像が使われてきたのはそのためだ。 モンタギュー氏は、タコの体色の変化は、内的な状態が体に現れているものなのではないかと考えている。「タコの皮膚は信じられないくらい電気的で、基本的にタコが考えていることを表しているのだと思います」
文=Sofia Quaglia/訳=三枝小夜子