タコやイカはなぜ驚異の変身能力を獲得した? 色覚がないのに色も形も一瞬で変化
獲物を欺き惑わせる
頭足類は、無害な動物に擬態して獲物に近づくこともある。トラフコウイカ(Sepia pharaonis)は、その色や質感や動きをヤドカリに似せて、獲物であるスズメダイに接近することがある。アメリカアオリイカ(Sepioteuthis sepioidea)は、逆向きに泳ぎ、腕をヒレのように振ってブダイに擬態し、獲物に近づく。 体全体に縞模様や円や色の模様を表して、獲物を惑わせてから襲いかかるのも手の内のひとつだ。英ブリストル大学の視覚生態学研究者であるマーティン・ハウ氏は、コブシメ(Sepia latimanus)というコウイカが獲物に近づく際に、頭から腕に向かって暗色の輪を波打たせるしくみを研究している。 「まるで手品師が観客を魅了したり、催眠術をかけたりするような感じです」と、ハウ氏は言う。氏は、コブシメのこの行動は、実際よりも遠くにいるように見せかけて獲物を油断させるためではないかと考えている。 ソデフリタコ(Octopus laqueus)も、体に黒っぽい模様を走らせることがある。ハウ氏は、これは実際には静止しているのに遠ざかっているように見せることで、隠れている獲物をおびき出そうとしているのではないかと言う。同様の行動は、ほかの種のタコでも報告されている。 「私たちはこれまで何十年も、カモフラージュを静的なものとして研究してきました」とハウ氏は言う。「しかし実際には、自分の体表に動く模様を見せられるとなると、あらゆる種類の非常に興味深いことができるわけです」
仲間同士のコミュニケーション
社会性のあるアメリカオオアカイカ(Dosidicus gigas)は、太陽光がほとんど届かない深海でも、見た目でコミュニケーションをとる方法を編み出した。彼らは発光器を使って体全体を明るく輝かせ、色の変化を見えやすくしているのだ。アメリカオオアカイカは毎日、水深の深いところと浅いところを移動しているが、群れでこうした移動をする際に光のシグナルを利用しているようだとベッキオーネ氏は言う。 また、アメリカオオアカイカのオスは、体全体に黒っぽい色を点滅させて優位性を示し、ほかのオスを撃退することがある。コウイカのオスも、ほかのオスに遭遇すると、ヒレをはためかせながら黒と白の縞模様を見せつけて優位性を誇示する。