河合優実が語る『あんのこと』。薬物依存や過酷な家庭環境……現実のなかに映画が見出した「救い」
あの団地の部屋に2度目に行ったとき、平静ではいられなかった
―共演者の方々とはどういった話をしてつくり上げていきましたか? 河合:杏に更生への道を開いてくれる刑事・多々羅役の佐藤二朗さんや、ジャーナリストの桐野役の稲垣吾郎さんは、私のなかで役とご本人の印象が重なっているんですよね。 今回は順撮りに近いスケジュールだったんですが、カメラの前でその場その場の自然な感情に身を委ねることができたので、杏に対して親身に寄り添ってくれた多々羅や桐野のように、現場での二朗さんや稲垣さんの存在は本当に頼もしかったです。そのぶん、役や映画についてはそこまで話をしていなくて。いちばん話をしたのはお母さん役の河井青葉さんですね。 ―河井青葉さんの凄まじい怪演には驚きました。杏に売春を強要し、容赦なく暴力を振るう毒親の役。娘の杏を「ママ」と呼んだり、彼女自身に意外な幼さが温存されていて、母親から娘へと受け継がれた負の連鎖を濃厚に感じさせたりもします。 河合:きっと杏はお母さんに泣いてほしくないし怒ってほしくない。お母さんには自分が必要だと感じていて、憎しみや怒りをぶつけたくはなかった。お母さんのほうは、そんな杏の気持ちにつけ込むかたちになっちゃっているんですけど、お互い良くも悪くも結びつきが強いから離れるのが大変だった。つまりある種の共依存関係にあった、ということなのかなと思っています。 「役から遠い」といえば、まさに青葉さんはそうで。普段は本当に穏やかで優しい方なので……今回は一緒に暴力シーンをつくっていくのが本当に大変でした。きっとゼロから100にまで瞬間的に振り切れるタイプの演者もいらっしゃるんでしょうけど、私たちはリハーサルのときから、その空気を作ることにものすごく時間が掛かりましたね。 難しいと思うんですよね、こういった作品でのコミュニケーションの取り方って。青葉さんの苦しさも、私の苦しさも、現場では結構漏れ出ちゃっていた気がします。お互いに。 ―今回は東京・赤羽が舞台ですが、オールロケ撮影ですよね。杏が母親や祖母と住んでいるのは、ゴミが散乱している団地の一室。あの部屋の中に入れば、もう澱んだ生活の空気が醸成されている……そこでの演技はきつかったですか? 河合:そうですね。たぶん、私は演じる役にすごい気持ちが持っていかれてしまうタイプではないと思うんですけど、あの団地の部屋に2度目に行ったときは、やはり平静ではいられなかったです。 もうあの家からは逃れようと、二朗さんと稲垣さんが公園で待ってくれている間、杏が自分の荷物を取りに行くためにもう一度団地に行ったとき。「ああ、この場所に戻ってきてしまった……」って、胸がずーんと重たくなったのを覚えています。 ―杏が戻りたくない場所。その感じは映画にものすごく出ていました。 河合:基本的に順撮りだったので、杏に同期していた私自身の感情の変化の過程を、できるだけそのまま映してくださいました。