関東に眠る地下神殿! 観る者を圧倒する巨大構造物と、その圧倒的な「観光価値」を考える
課題と展望:インフラツーリズムの未来
しかしながら、インフラツーリズムの推進には、いくつかの課題が存在する。 最も重要なのは「安全管理の徹底」である。一般客の受け入れにともなうリスク管理や、工事途上であれば、実際の工事進行との両立に慎重な配慮が必要となる。また、建設現場が観光の目玉となっている場合は、工事完了後の観光資源としての価値維持や、長期的な運営戦略の策定も重要な課題だ。 さらに、成功させるには、魅力的なプログラムの開発や地域文化との連携など、「コンテンツの充実」も不可欠だ。黒部ダムの成功例のように、インフラ設備という「素材」の魅力もさることながら、それを最大限に引き出す「見せ方」に工夫が求められる。地域的な要素や特性とのマッチングなど、緻密な企画やアイデアも必要だ。 前述の首都圏外郭放水路では、見学する水槽を「地下神殿」と命名することで、異世界アニメやSF映画の舞台をほうふつとさせる趣向を凝らし、若い世代にもアピールしている。ハロウィーンには水槽内をライトアップするエンターテインメント要素の高いイベントも企画し、予約チケットは完売している。 こういった例からも、インフラツーリズムの今後の展望として、日本の観光業界に新たな可能性をもたらすものとして期待される点がある。特に注目すべきは、 「観光の地域分散化」 への貢献という面だ。従来の観光地に集中していた観光客の流れを分散させ、有名観光地に集中するオーバーツーリズムの緩和にも寄与することが期待される。 日本のよさは、歴史的な古き良き伝統ばかりではなく、ものづくりという面でも大いにアピールできるはずだ。インフラツーリズムという新しい観光の形は、日本の優れた技術力をショーケースする舞台としても機能し、産業観光としての新たな価値を創出する可能性を秘めている。さらに、 「過疎地域における新たな観光資源の創出」 にとどまらず、地域のブランド価値向上にも貢献することが期待される。 建設業界や地方自治体など、これまで観光とは縁遠かった分野にとっても、インフラツーリズムは新たなビジネスチャンスとして注目に値する。インフラツーリズムの潮流を理解し、積極的に取り入れていくことは、新たな成功へのひとつのカギとなりうる。 その成功には、 ・官民一体となった推進体制の構築 ・地域特性を把握すること ・それを生かした独自のプログラムを開発すること が不可欠だ。観光産業の枠を超え、地域振興や技術教育、産業の発展など、多面的で価値ある取り組みとして、日本のインフラツーリズムが、より豊かな社会の実現にどのように貢献していくのか、どのように発展していくのか、今後の動きに期待したい。
黒田莉々(フリーライター)