関東に眠る地下神殿! 観る者を圧倒する巨大構造物と、その圧倒的な「観光価値」を考える
具体的な成功事例
インフラツーリズムとは、読んで字のごとく、インフラ施設の建設現場や完成した設備を観光資源として活用する観光形態だ。従来、一般の人々にとってなじみが浅く、ましてや鑑賞の対象などとは想定されていなかった建設現場や土木構造物が、新たな観光資源として脚光を浴びつつあるのだ。 その魅力は、 「普段は立ち入ることのできない場所」 に足を踏み入れ、その圧倒的なスケールや最先端の技術を間近で体験できることにあり、従来の観光では味わえない新鮮さがある。 例えば、世界最大級の地下河川である首都圏外郭放水路(埼玉県)の見学ツアーでは、「地下神殿」と称される巨大な調圧水槽の内部を歩いたり、70mという目もくらむような深度の立て坑といった普段は見ることのできない施設内部を見学したりできる。 また、日本を代表するインフラツーリズムの成功例として知られているのが、富山県の黒部ダムだ。壮大なスケールを誇るアーチ式コンクリートダムの内部見学ツアーでは、巨大な放水設備や発電施設を間近で見学することができる。 特に、夏季に実施される観光放水は、毎秒10tもの水量放出を間近で体感でき、圧巻の光景として、国内外から多くの観光客を魅了している。ダムそのものの見学に加え、 ・トンネルトロリーバス ・ケーブルカー など、アクセス手段自体も観光資源として機能しており、総合的な観光体験を提供し、人気の持続に成功している。ほかにも、 ・橋梁 ・高速道路 ・港湾 ・空港施設 など、さまざまなツアーが国土交通省によるインフラツーリズムのポータルサイトにリストされている。
もたらされる経済効果の可能性
日本の観光業界において、インフラツーリズムはさまざまな経済効果をもたらすと期待される。まずは、これまで 「観光産業とは無縁」 だった建設業界に新たな収益源をもたらす可能性だ。まさに前述のゼネコン佐藤工業の狙いがここにある。工事中の現場や完成したインフラ施設を観光資源として活用することで、建設会社は本業以外の収入を得ることができ、企業としての知名度向上やイメージアップにもつなげられる。 また、インフラツーリズムの観光事業は、そこにすでにあるものを利用し、新たな観光用施設を一から建造するわけではない。破格にリーズナブルな展開ができる事業であり、環境破壊やエネルギーの大量消費を発生させることもなく、サステナビリティの観点からも評価できる。 実はこの環境配慮という観点は、今や世界的な潮流となりつつあり、特に観光産業が未発達の国や地域においてもインフラツーリズムが注目されてきているゆえんでもある。昨今、観光客の視点や興味は、巨大資本が環境破壊して作り上げるきらびやかな観光地から、自然や、少しづつではあるが、 「地域社会に根付くインフラ構造物」 という新たなスポットへと向かいつつあるのだ。 そういった面からも、これまで観光産業に縁遠かった日本国内の地域でも、インフラツーリズムは経済的刺激となりうるといえる。新たな観光客の流入に成功すれば、飲食業や土産物店など、関連産業の活性化につながり、地域の雇用創出にも貢献する可能性がある。ツアーガイドや施設の管理運営など、新たな職種が生まれることで、特に、過疎化が進む地域では、この効果は大きいと考えられる。 また、インフラツーリズムの教育的側面にも大きな存在意義がある。一般市民がインフラ整備の重要性や技術の進歩のすばらしさを実感できる機会を提供することで、社会インフラへの理解と関心を深めることは意義深い。これは長期的には、 「インフラ整備に対する国民の理解と支持」 につながり、公共事業の円滑な実施にも寄与する可能性があると期待される。