『BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』伝説の『E.T.』タッグ再び。スピルバーグと脚本家メリッサ・マシスンが作品に刻んだもの
子供たちと同じ目線で湧いてくるもの
マシスンは脚本を書き上げたらそれで終わりではなく、作品が完成するまで最後までじっくりと付き添うタイプの脚本家だ。 例えば『E.T.』ブルーレイに収録されている記録映像を紐解くと、撮影現場にて子役たちと同じ目線の高さでコミュケーションを取って笑い合うマシスンがすぐに見つかる。かと思えば、カメラが彼女の方へ向くと、ちょっと恥ずかしそうにはにかむ姿も印象的だ。 彼女はもともとコッポラ(コッポラは両親の友人だった)の子供たちのベビーシッターをしていた経験もあるし、結婚後はハリソン・フォードとの間の子供たちも立派に育て上げた。そして、自身が関わった作品の撮影現場では、子役たちと直に接して関係性を深めることも欠かさなかった。このようにして子供らと同じ目線で共に時間を過ごし、そこでヒントを得た”生きたセリフ”を数多く取り入れることで、作品に有機的な輝きを添えていったのである。 一方、『BFG』ブルーレイにもメイキング・ドキュメンタリーが収録されているが、マシスンが映画作りの様々な過程にしっかりと寄り添う姿勢は34年前と全く変わっていない。脚本をどう修正すべきか、何が最適のセリフなのかを責任持って吟味するその表情は、映画作りの職人というよりむしろ、一つの命が育ちゆく姿をじっと愛情もって見守っているかのようだ。
映画独自のラスト、『E.T.』との共通点
今回、筆者がダールの原作「オ・ヤサシ巨人BFG」を読んでいて気づいたことがある。メリッサ・マシスンは全てを原作通りに脚色化したわけではなく、時には勇気を持って細部を削ぎ落とし、ストーリーをなるたけ少女と巨人の心の交流にフォーカスすることを忘れなかった。 そして、クライマックスは映画と原作とでやや印象が異なる。原作ではウィンザー城の隣の公園内に巨人のどでかい住居が作られ、その隣に可愛らしいソフィー用の住居が作られ、二人がその後も仲良く暮らしたであろうエピソードが添えられる。けれど、映画版は決してそうではない。最後の場面の二人はさも当然の摂理のように別々の場所で、別々の暮らしを送っている。しかし研ぎ澄まされた聴力を持つ巨人にはソフィがたとえどこにいようと、彼女がふと朝の挨拶を呟くだけでそれをしっかり聞き取ることができる。離れていても二人は、決してこれまでのような一人ぼっち同士ではないのである。 ここでふと思い出すのは『E.T.』のクライマックス。別れの時、E.T.は光る指をエリオットの額に当てて"I'll... be... right... here.(字幕では「ココニイル」)"と口にする。離れていても共に過ごした記憶や互いを想い合う気持ちはずっと色あせることがない。いつも一緒。こちらの二人も決して一人ぼっちではないのだ。 『E.T.』はよく知られるように、スピルバーグが経験した両親の離婚を一つの着想としている。かくも”別離”がつきものの人生において、いかにそれを乗り越えていくかという部分こそ、スピルバーグが最も描きたかったテーマの一つだろう。 そう考えると映画独自の『BFG』の着地点にも納得がいく。二人が迎えるラストは「ずっと一緒にいること」よりもずっと現実的で、むしろ離れているからこそ、なおいっそうの強い絆を感じさせる。『E.T.』から34年経ってもいっさいブレていないこのエンディングは、マシスンが亡くなった今、より深淵な響きを持って胸に響いてくる。 私にはこれがロアルド・ダールの児童ファンタジーであるとともに、スピルバーグとマシスンの作家性や共鳴性、表現者としての信頼関係までもが驚くほどナチュラルに投影された稀有な一作に思えてならないのだ。 参考資料) 『E.T.』ブルーレイ収録ドキュメンタリー映像 『BFG』ブルーレイ収録メイキング映像 https://ew.com/article/2015/12/22/steven-spielberg-remembers-melissa-mathison/ https://time.com/4109365/melissa-mathison-steven-spielberg/ https://www.theguardian.com/film/2015/nov/05/melissa-mathison-master-hollywood-storyteller-et-the-extra-terrestrial 文:牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU 1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。 (c)Photofest / Getty Images
牛津厚信