エイベックスが挑む「大麻布」の商品化、日本のものづくり文化を世界へ
こうした、自分たちの知恵でエコな考え方をしていたら結果的に素材もエコで、デザインもおしゃれになったというような、日本人独特の思想にヨーロッパ人は心をときめかせていたという。 「日本には、お兄ちゃんが着たものを弟が着て最終的に雑巾になってお母さんが使うといった劣化していくサイクルではなく、お兄ちゃんが着てくれたおかげで弟はもっといいものを着れるというようなサイクルを作ることができる知恵やノウハウがあり、大麻にはこうした日本の国民性と合う特性があると思っています」と渡辺氏は言う。 しかもこの国民性は誰かに押し付けられる形で取り組みが行われてきたというよりも、無意識のうちに日常の生活の中で育まれていったとする解釈の方が納得しやすく、そうした先祖の力、過去からの財産を活かし、素材に対する作り方のヒントを出してくれる職人さんや農家さんを守りたいということも含めて活動を続けていることを渡部氏はmajotaeプロジェクトにかける思いとして語ってくれた。 ■majotaeチームが考える大麻布の未来 ミラノサローネで示した「考古学的なアプローチでのものづくりこそ、イノベーティブなものづくりにつながる」という考え方はヨーロッパでも大いに受け入れられ、ブースには来場者が絶えなかったという。 「今後は日本ではもちろん、世界、特に大麻への理解があるヨーロッパや北米へ本気で展開していきたいという思いがあります。また、テキスタイル以外の多様性という意味では現在、壁紙や産業用資材の製作もしているので、空間全体を作っていくような領域にも大麻という素材を展開していきたいです」と渡部氏は今後の展望を述べてくれた。
世界では産業用ヘンプとして、THCの含有量の基準値を設定する形で農作物として栽培、流通を許可する国も出てきており、その有効活用の範囲も広がりを見せている。また、近年の世界的な気候変動の影響を目の当たりにし、次の世代が持続的に住むことが可能な地球環境を残そうという意識も多くの人が抱いてきている。 一方で、エイベックスという企業はエンターテイメント産業の一翼を担う存在であり、エンターテイメントは文化があることで生まれることを踏まえれば、1万年の歴史を持つ日本の大麻布を、単なる“記録”ではなく、その中に潜むさまざまな価値や日本文化を“アーカイブ”しながら発信していくことは、日本人ですら忘れてしまっている日本の古来から連綿と築いてきたものづくりの精神を改めて呼び覚ますためにも、同社だからこそできる取り組みであると言える。歴史と、それを活用してものを作ってきたという文化を組み合わせて誕生したmajotae。その挑戦は今、ようやく世界に向けて一歩踏み出したと言えるだろう。
上定真子