エイベックスが挑む「大麻布」の商品化、日本のものづくり文化を世界へ
しかし、紡績技術の機械化が進む中で、機械では大麻布の柔らかさを再現することができず、より早く簡単に製造できるコットン(綿)に取って代わられていった。日本では、第二次世界大戦後の1948年に大麻取締法が施行された結果、国内での栽培が制限されたこともあり、今では一般に流通していない繊維となってしまった。大麻布は徐々に日本人の生活の中から忘れ去られつつある状態となっているのだ。 こうした歴史をもつ大麻は、少しの水で育ち成長も比較的早く、農薬や化学肥料も不要で輪作も可能、しかも不良土でも育つといった特徴から、地球環境に大きな負荷をかけず栽培できるサステナブルな素材として近年注目を集めている。 また、他の天然繊維に比べて耐久性も高く吸湿性や抗菌性、消臭性もある。加えて、麻というと、シャリ感があり夏のイメージが強いが、織り方次第で夏は涼しく、冬は暖かく、気温や気候に関わらず年中心地よくまとえる優れた素材として活用できるという特長もあるという。 エイベックスは大麻100%素材を現代に蘇らせ、江戸時代の大麻布が持っていた絶対的なクオリティの再現への挑戦を2011年から続けてきた。日本各地から収集した1000点以上の古布のアーカイブや資料から徹底的に当時の制作工程を研究。実践を繰り返し約8年の歳月をかけて、シルクのような光沢感と、柔らかい肌触りを持つ大麻布「majotae」が実現したという。
さらに、これまで不可能と言われてきた丁寧な手作業でしか実現できなかった大麻の肌触りを、機械による繊細な紡績で現代に甦らせることに成功。工業化が可能となったことを受け、2022年からは実際に一般の人でも購入可能なブランドとしても展開を開始した。 「昔は手で丁寧に作っていた糸は、現在あるテクノロジーと融合させることで甦らせることができます。すべてをアナログのままにしていれば途絶えてしまう、昔の人々が持っていたノウハウやサステナブルな知恵、文化は現代技術を使えば継承することができるのです。ただ環境に優しいとか柔らかい糸ということではなく、昔の日本にあったものづくりの考え方や文化も含めて残していきたいです」と渡部氏は語っていた。 ■大麻布を発信、ターゲットは世界 毎年4月にイタリアのミラノで開催される世界最大規模の家具見本市であるミラノサローネ(正式名「Salone del Mobile.Milano、サローネ・デル・モービレ・ミラノ」)へ出展したmajotaeプロジェクトチーム。 世界中から建築関係者、デザイナー、ジャーナリストなど第一線で活躍する人たちが大挙して訪れ、最新トレンドが集結する見本市であるが、なぜミラノサローネへの出展を決めたのか? 日本ではなく世界にターゲットを置いた理由を伺った。 「今回、私どもは海外のブランドやインテリアデザイナーなどに発信したくミラノサローネへ出展を決めました。今まで日本で大麻布の魅力を発信してきましたが、"大麻″という言葉のパワーは良くも悪くも強く、メディアで規制がかかることもありましたし、正しく伝えることができずにいました。世界であればそうした先入観をもたずに、純粋に素材としての良さや、日本のものづくりの考え方に興味を持ってもらえるのではないかと考え、時間をかけて準備をしてきました」(渡部氏) しかし、海外イベントへの出展ということで、日本の歴史的なものづくりに対する考え方をどう伝えるのが良いか悩んだとのこと。ミラノサローネに出展する企業は、コンセプトを1つに絞って展示を行うことも多く、当初プロジェクトチームでも1つに絞った分かりやすい展示の方が海外の人に伝わるのではないかという意見もあったという。 しかし、素材プロダクトとしての機能性を伝える展示と、ストーリーを重視した歴史的な部分の展示の両面とも重要と考えた結果、どちらも捨てることはできなかったという。渡部氏は「本当に空振りして何も残らないか、打つべき人にホームランを打ってもらうか。極論1人の人に刺されば良いと思って大勝負にでましたが、内心はとても不安で仕方なかったです」と、その当時の心境を語る。 majotaeチームは、"大麻″という言葉がもつ強さを理解した上で、大麻布が持っている長い歴史も含めて発信を行うという軸をぶらさないことを信念にミラノサローネでの展示の在り方を決め、現地に臨んだ。