モー娘。小田さくら、櫻井梨央が2024年の目線で語る「モーニング娘。」の伝統と革新
「私は今まさに考え期です」(小田)
―とても興味深いです。そして、モーニング娘。の歴史に新たな1ページを書き足すような新曲が出ますが、武道館で「なんだかセンチメンタルな時の歌」を初披露したとき、空気が止まるというか、お客さんがみんな息を飲んでる感じが伝わってきました。すごい曲ですよね。 小田 すごい曲だから若い子はどう思って歌ってるんだろうっていうのはすごく気になって。10~20代のアイドルがこんな生々しいこと歌っちゃうんだって。大人になってしまった自分に対するちょっとした失望とか、みんなが触れられたくないものにアイドルから触りにいくっていう(笑)。自分と周りを比較しやすい時代にぴったりだと思います。この歌詞にあるようなことを感じる人って昔より多いんじゃないかなとか思ったりします。でも、弓桁朱琴ちゃんはまだ高校1年生になったばっかりで、歌詞の意味が半分以上よくわかんないって言ってました。だから朱琴ちゃんはまだ大人になってしまってはいないんだなって。でもらいりーは18歳だし、ギリギリ大人なみたいな年齢の子がどこまで共感してるのか気になります。 ―どうなんでしょう? 櫻井 5、6年後とかにこの曲をやることになるときに、そのときのメンバーがどういう反応するのかなって最近すごく思ってて。「『センチメンタル』やるんだ……!」みたいになるのかな、みたいな。 小田 そうだね! 櫻井 私には初めてやる曲がまだ全然あって、「この曲、できるんだ!」みたいな気持ちが何年後かにもあったりするのかなっていう想像を最近するようになって。で、そのときにまだ自分がメンバーでいたら、その曲の歌詞をちゃんと理解した状態でパフォーマンスできるようになってるのかなって。今はまだ歌詞をしっかり理解できてるのか自分ではわからないですけど、言ってることはわかるという感じです。 小田 5年後とかに急にわかるようになったらちょっと悲しくなると思う。「あれ、この曲、前よりすごく共感しちゃうな……」とか思ったら、それはらいりーも大人になったってことだよね。 櫻井 歌詞はポジティブ一辺倒ではないし、「あのときはああだったな……」っていう曲だからこそ、何年後かに深みが出てくるんだろうなって今すごく感じてます。 小田 つんく♂さんってそういう曲をよく作りますよね。時が経ってある日突然、歌詞の意味に気づいてハッとすることがある。ジブリみたいに、初めて見てから何年も経ってから、「これ、そういう意味だったのか」って気づく曲のひとつだと思います。 ―サウンドもかなりトリッキーですよね。 小田 びっくりしました。モーニング娘。の曲って音数が多いじゃないですか。この曲はAメロに音が2つしかないんですよ。「J-POPで音が2つなんてことある!?」みたいな。 櫻井 なんなら間奏が一番盛り上がってますよね。 小田 LとRに音が振られてるんですけど、それもすごく楽しいからイヤホンで聴いてほしい。 ―ビート感が途中で変わるじゃないですか。歌い方もそれに合わせて変えようという意識はありましたか。 櫻井 振付はそれまで滑らかな動きだったのがいきなり力強くなるけど、歌までは考えてなかったです。 小田 そもそも、これって歌ですか? なんか、喋ってません? 櫻井 語ってるみたいな。 小田 そうそう。でも、リズムがちゃんとある。私はモーニング娘。だからできるけど、そうじゃなかったらこの曲を突然もらっても歌えないと思います。ダンスに関して先生がおっしゃってたのは、シーンの中心にいる人物がソロを歌っている子で、その周りはアンサンブルという意識でいなさいって。私が“夢に見てた憧れてた”って言ってるときに、私が見てる夢をアンサンブルの人たちが、私の気持ちの延長のようにその夢を追いかける振りをする、みたいな感じなんですよ。 ―なるほど。 小田 印象としてはミュージカルに近いです。あと、サビになると音がめっちゃ増えるのに、振り数は逆に減るんですよ。だからこそ私たちに託されるというか、だからこそ、少ない振り数にいかに力を込めるかとか、そういうこと考えながらやってます。 ―そして、それとは真逆の「最KIYOU」。 小田 この曲は、その世代の音楽を聴いていた方には懐かしいんだろうなっていう曲です。 ―そうなんですよ。ニュージャックスウィングですね。 小田 とってもわかりやすい曲ですけど、歌がすごく難しくて。まだ音程がわかってないところもあります。 櫻井 本当に難しい。何回聴いても正解にたどり着けなくて。なんか、いろんな音程があるじゃないですか。「この音程かな?」と思ったら違う、みたいな。それがこの曲の難しいところだなって思います。 小田 この曲、作るの楽しかっただろうなって思います。 櫻井 確かに。 小田 だから、それにいかに応えるかだよね。 櫻井 本当にそう思います。 ―このハネるビートはどうですか。 小田 「これぐらいキレキレで踊ってください」って参考例として言われた曲が、ジャネット・ジャクソンの「Rhythm Nation」なんです。モーニング娘。ってかなりキレッキレに動くほうだと思うんですけど、それでも「足りない」って言われました。「もっと力入れて」みたいな。だから、筋肉をすごく使うんですよ。 ―歌詞に関してはいかがですか。 小田 「強く見せてるけど、本当は弱いんです」という女の子の曲はいっぱいあったと思うんですけど、これはそうじゃなくて、普通に「私、ほかの人よりデキるからね」で終わってる曲なんですよ。損することもあるけど、私は一人でもできるし、自分のことが好きだから人一倍頑張るけどねという、あんまりいないタイプ。2番に“苦しい時だけ任されGirl”っていう歌詞があるんですけど、それがこの曲の全てだなって。 ―それはどういうことですか。 小田 常に自信があって、パッと見で困ってるようには見えないし、頼めば何でもやってくれるからいつでも任される。「周りから見たら損をしてるのかもしれないけど、私はそんな自分でいることで何も困っていないので」みたいな(笑)。でも、いくらメイクでごまかしても疲れの跡は隠しきれない。 ―櫻井さんは“最KIYOUで悪いか?”という歌詞をどういう気持ちで歌っていますか。 櫻井 1番と2番でキメの歌詞が違って、1番は“最KIYOUで悪いか?”で、2番が“最KIYOUでいたいんだ”なんですけど、そこにも差があるのかなと私は思います。私は1番で“機嫌くらい取りにこいよ Boy”っていう歌詞も歌わせていただいてるんですけど、そこも含めて、ちょっとツンとしてるイメージが1番にはすごくあって。だから「最強で悪い?」って言ってるのかなと思いました。でも、2番は“苦しい時だけ任されGirl”みたいな歌詞もあるし、「本当は最強でいたいんだ」って言ってるのかなと思ったりして、この歌詞の主人公ってかわいいですよね。最後は全員パートで“最KIYOUで悪いか?”で歌うっていう。そういう歌詞の変化を理解して楽しんだ上で、1番の“最KIYOUで悪いか?”を歌っていますね。 小田 強いよね。多分、恋愛でも彼氏は何もしてくれないんだろうね。 櫻井 それが2番から伝わってきます。 小田 機嫌も取りに来ないって。しかも“重ねてく ラメパウダー”ってそのせいで泣いてるし、仕事でも恋愛でも主導権を握らされてる。でも“バカにされて撒く愛想はない”とか、人からイジられて「そうなんですよ~、私って○○で~」とかじゃなくて、「馬鹿にされてるのになんであなたに愛想よくしなきゃいけないんですか」みたいな。そんな子、なかなかいないよね。 ―でも、最後に“君も さ、行こう”で終わってるところがすごくモーニング娘。でとてもいいなと。 櫻井 “最高”じゃなくて“さ、行こう”なのがすごく好きです。 小田 そうなんですよね。「行けたらいいな……」っていう感じですけど、「そんなに強く生きられないよ」って思います(笑)。 強くて器用って、そうなれたらすごいですよね。 ―これから先、自分たちの在り方についてはどう考えていますか。 小田 私は今まさに考え期で、自分が学んできたことをどれくらい引き継ぐか、どれくらい作り直してもらうかを考えているところです。「もうそういう時代じゃないです」って言われたら素直に「そうなんだ」と受け止めて、無くした方がよければ、無くせばいいと思います。モーニング娘。って全アイドルの中で最後でいいと思うんですよね。 ―というと? 小田 たとえば礼儀やマナーに関しては、もしそれが無くなるとするなら、モーニング娘。がアイドル界で最後であってほしい。だから、モーニング娘。以外のすべてのグループで「効率が悪いからやめよう」ってなったらやめるくらいが、ちょうどいいのかなと思ってます。一方で、これがどこまでなら独りよがりにならないかを探っている最中です。 ―櫻井さんは? 櫻井 最近思うんですけど、モーニング娘。って楽屋がすごく楽しいんですよ。思いません? 小田 うん、楽しい(笑)。 櫻井 楽屋ってひとりの時間を大切にする場所って思っている方もいらっしゃるかもしれないですけど、モーニング娘。の楽屋はメンバー同士で喋ったり、いろんな趣味について話したり……たとえばヘアアレンジをしたり、蝋を溶かしてシーリングスタンプをやったりしてるんですよ。そういう光景を見て、「モーニング娘。の楽屋っていろんな人がいて楽しいじゃん」って思って。すごく居心地がいいんですよね。挨拶をちゃんとしたり礼儀を大事にしてるけど、だからといって先輩と後輩の間にすごい壁があるわけではなくて。そういう意味では今のグループの形ってすごくいいんじゃないかと私は思ってるので、このままの状態でモーニング娘。がずっと続けばいいなって思いますし、今後また後輩のこともちゃんと受け入れられる態勢をつくっておきたいですね。明るい雰囲気にしていきたいです。 ―今年頭、小田さんはフィロソフィーのダンスとライブでコラボされてましたよね。モーニング娘。在籍中に他のグループとコラボをしたって珍しい話だなと思って、ああいう音楽活動はすごくいいなと思いました。 小田 モーニング娘。はおかげさまで長く続いていて、ずっと守っていただいてるグループなので、私が何かを判断することはないからわからないですけど、やっぱりオファーを頂いたお仕事に対して全部応えられてるわけではないんです。会社がすごく考えてくれた上で私を送り出してくれて、フィロソフィーのダンスさんの音楽性の高さがあったからこそ、ああいうコラボが実現したんですけど、本当に勉強になる時間でした。特に、奥津マリリさんみたいな歌い方ができるアーティストってほかに誰かいますか?ってくらい、代わりの利かない超宝物だと思うし、モニターから自分の耳に入ってくる情報がいつもと違ったりするのもすごく楽しくて。あの日のステージの映像、内々で私は持ってますけど、外の人に見ていただくことは多分ないと思うので、自分の中でも伝説と化していて。 ―それはどういう意味で? 小田 あの日のチケットは倍率がすごかった上に、当日は近年稀に見る大雪で会場までたどり着くのも大変だったんです。そういういろんなことが重なったことで自分的には伝説の一夜になっていて、「あなたと私だけの記憶ね」っていうくらい大切な記憶です。 ―またそういう機会があったらいいですね。 小田 あったらいいですね! モーニング娘。はどこに出しても恥ずかしくない子ばっかりなので。 ―個人的には柏木ひなたさんとの共演が観たいです。 小田 ひなちゃーん! できたらいいですね。 櫻井 ああ~、観たーい。 小田 今は普通に仲いいだけなんで(笑)。2人でカラオケに行くとやっぱりすごいなって思います。「この空間、楽しい」って。 櫻井 行きたーい! 隣にいたーい! 小田 柏木ひなた、小湊美和さん、私っていうカラオケがあったんですけど、「なんだここ……?」って思いながら見てました。楽しかったです。 ―何らかの形で実現してもらいたいです。 小田 ぜひ! Edited by Takuro Ueno 「なんだかセンチメンタルな時の歌/最KIYOU」 モーニング娘。’24 UP-FRONT WORKS 発売中
Daishi "DA" Ato