「若者に“エモい”って言わせたら勝ちです」JR SKISKIのCMが狙う「エモ」戦略…そもそものレトロ路線が女優の大写しポスターとハモって生んだ功罪とは
戻って来ない「青春」はなぜエモいのか?
まずは実際のCMを見てみよう。本田翼による2012年のCM再開以後、これらのCMは常に大学生と思しき男女の「青春」、それも「雪山での恋愛」が描かれている。本田翼バージョンでは、主人公の男女2人はおそらくお互い気になっているのにもかかわらず、なかなか「好き」ということができない。そのもどかしい状況が、スキー場を舞台に描かれている。 いずれにしても、このCMで描かれる恋愛模様は、ある意味、漫画やドラマで描かれる典型例ともいえるもので、「こんな青春、存在しないよ!」とツッコミを入れたくなる(個人的に一番「あるわけないだろ!」と思うのが、2015年の山本舞香と平祐奈をダブルヒロインに迎えたCM。ここでは1人の男性を巡って2人のヒロインが競い合う、という内容のもの)。 見ていると、こちらが恥ずかしくなってくるぐらいだ(でも、見てしまう)。 立命館大学で「エモ」について研究中の浦野智佳は「エモい」という感情の構成要素として「非現在的感覚」を挙げている(「情動を表現する切り口としての『エモい』」)。「非現在」、つまり「現在」にはないようなもの、私たちが生活している「今、ここ」ではもう存在しないような対象に感じる感情が「エモ」だという。 「エモい」と形容されることが多い「青春」は、この意味で、多くの人が経験したことのある青春がすでに過ぎ去ってしまったものとして、もう戻ってくることがないからこそ、エモく感じられるわけだ。 そう考えると、こうしたCMもまた、青春を上手く描くことによって、「エモ」を抱かされているのだろう。ちなみに、これらのCMが「もう戻ってこない青春」に意識的なのは、例えば2019年に放映された浜辺美波のバージョンで「この冬は二度と来ない」とナレーションが入っていることにも表れている。 https://youtu.be/pyrNkT_vFI4 2019年に放映された浜辺美波のCM