「若者に“エモい”って言わせたら勝ちです」JR SKISKIのCMが狙う「エモ」戦略…そもそものレトロ路線が女優の大写しポスターとハモって生んだ功罪とは
もともとは「レトロ」狙いのCMだった
興味深いのは、山口たちがこのCMシリーズを制作したのは、世間的に「エモ」が言われ始めるより前だったことだ。「JR SKISKI」のCMが再開されたのが2012年、「エモ」が流行し始めたのは2016年あたりのこと。だいぶ、先んじていたことがわかる。山口は前傾したインタビューでこう述べる。 本田翼さんを起用した2012年は、90年代を意識したファッションやカルチャーが流行し始めていました。そこで、ポスタービジュアルも“バック・トゥ・ザ・90s”の流れに乗ってみようということになったんです。 このCMを作り始めた当初、山口が意識したのは、「エモ」的な感性より、どちらかといえば「レトロ」的な感覚であった。1997年にJRに入社した山口は、青春時代を1990年代ど真ん中で過ごした世代である。こうした彼自身の1990年代の「青春」の経験が、広告に影響を与えていると考えられなくもない。 浜辺美波がビジュアルイメージを務めた2019年のポスターは「写ルンです」(1986年から商品化)が使用され、そのザラザラとしたアナログな質感の写真も話題を呼んだ。 現在のネット上ではこうしたレトロなものが「エモ」と結びつけて語られることが多い。それこそ、先ほど見た通り「エモ」が「もう戻ってこないもの」に発生するのであれば、レトロとはまさに「もう戻ってこない、過去のもの」だからだ。 したがって、山口が自身の青春時代に影響を受けた広告を応用にした「JR SKISKI」シリーズが、次第にSNSなどで「エモい」と評価されるようになるのを見て、後追い的に「エモ」路線に自ら寄せていったのではないか。
「レトロ」路線CM×大写しの若手女優ポスターが思わぬヒットを作った
ちなみに、この「レトロ」路線だが、思わぬ副産物を産んだ。 山口によれば、90年代は女優の顔を大きく写したポスターが流行し、「JR SKISKI」のポスターでもそれが大きく意識された。このポスタービジュアルが、その人気に拍車をかけることとなり、「本田翼さんの真似をして雪山で寝そべって撮った写真をSNSにアップしてくれる人もいた」という。 女優の顔こそ大写しになっているが、実はこの女優たちの構図は、意外にも一般の人たちでも真似しやすく、ポスターと似たような状況の写真を撮ることが簡単にできる。ゲレンデで実際に真似したことがある人も多いだろう。ポスターの構図を人々が真似してSNSに投稿することによって、その人気が広がっていった。