まさに異例の挑戦。吉本大樹、レースと音楽ライブ“同日出場”へ「複雑な気持ちですが、どちらのファンの方にも楽しんでもらいたい」
今季のスーパーGTは、8月31日~9月1日に予定されていた第5戦鈴鹿が台風の影響で12月7日~8日に延期となり、これがシリーズ最終戦となった。これは12月の同週末に組み込まれていたレースの日程変更など様々な影響を与えたが、GT300クラスのLMcorsaに所属する吉本大樹にとっても、頭の痛いスケジュール変更となった。 【動画】2024 スーパーGT第7戦オートポリス:決勝ハイライト(GT300) というのも吉本は、自身がヴォーカルを務めるスリーピースバンド『doa』の20周年記念ライブツアーを10月~12月に控えていた。しかも、年内での解散が決まっているdoaにとって、最後のライツツアーだ。当然ながらツアーはスーパーGTのレースとは重複しない日程で組まれていたが、第5戦鈴鹿が延期された先の12月7日は、名古屋JAMMIN’での愛知公演の日。まさかのバッティングとなってしまった。 「ちょうどその前の週末(11月30日、12月1日)がどのレースも入っていなかったので、そこに行くんだろうなと思っていましたが、まさか12月7日、8日になるとは思っていませんでした」 そう語る吉本。そこで彼はチームに第3ドライバーの起用を打診した。ドライバーはチームの母体である大阪トヨペットグループともゆかりが深く、GT300の参戦経験もある伊東黎明だ。そしてこれをチームは承諾したため、吉本はレースとライブの両方に参加できる運びとなった。 現状の計画としては、吉本は土曜9時15分から始まる公式練習に参加。セッション序盤に走行をした後、鈴鹿サーキットのある三重県からライブ会場のある愛知県に移動し、14時30分に開演される昼公演のリハーサルに間に合わせる……という算段だ。 「鈴鹿でのレースで、ライブが名古屋だったことも大きかったですね。これが九州や北海道だったら全然無理な話でしたから」 「GTA(スーパーGTのプロモーター)に確認したところ、フリー走行を走らなくとも金曜のブリーフィングさえ出ればいいとも言われていたのですが、やっぱり決勝を踏まえてクルマのバランスは確認したいですから。僕はフリー走行の序盤を走らせてもらい、それからは黎明にもクルマに慣れてもらって、予選はふたり(伊藤と河野駿佑)にやってもらって決勝は(吉本が)帰ってくる。前代未聞なスタイルになります」 「ライブの方は自分が行っていない分、準備など色々と任せてしまうことになりますが、リハーサルの時間までには行けるように、と思っています」 プロのレーシングドライバー吉本大樹(ひろき)、そしてミュージシャン吉本大樹(だいき)というふたつの顔を持つ彼にとって、こういった事態は歓迎されるものではないという。doaはスーパーGTのサポートレースであるFIA F4の主題歌を提供するなど、レースとも縁があるが、吉本個人としては基本的にレース活動と歌手活動は切り分けるスタンス。そのため、今回の“ダブルヘッダー”には複雑な思いもあるという。 「まずはチームにすごく迷惑をかけることになってしまいました。『別の用事があるので予選走れませんわ』なんてこと、普通は絶対にありえないですから。そこを承諾してくれて、なんとかできることになりました。だからこそ、決勝でしっかりとその恩を返すような走りをしたいです」 「前代未聞ですし、多分2度とこんなことはないと思います。自分の中では、サーキットに音楽をあまり持ち込まない、ライブ会場にはレースを持ち込まないというスタイルでやっていましたが、同日にハンドルとマイクを握るという……複雑な気持ちですけどね。でも、どちらに関しても、見に来てもらえるファンの人には楽しんでもらえるようにしたいと思います」 なお、この第5戦は当初350kmレースとして予定されていたため、通常であれば第3ドライバーの登録が許可されるフォーマットだった。しかしながら、このインタビューの2日後、GTAから第5戦鈴鹿のレース距離が300kmとされることが発表された。300kmレースはピットストップ1回が定石のレースで、基本的には第3ドライバーの登録が認められていないが、その辺りがどのような対応となるのかは気になるところだ。
戎井健一郎