<日本刀のいま>刀を捨てなかった日本人 時代とともに変わったものと守られてきたもの
「祈り」に通じる
「宮入鍛錬道場」は、「鉄の展示館」から徒歩5分ほどのしなの鉄道・坂城駅近くにある。一門を束ねる宮入恵氏は日本刀文化振興協会の専務理事でもあり、今回の新作技術展の審査員に名を連ねる。道場を訪ねて今年の出品作の感想を聞くと、「非常に質が高い。現代刀の展覧会では最高峰という位置づけですが、その通りの内容だと思います」と答えてくれた。 「我々の仕事は世の中の動きに連動する面があります。やはり景気が下火になると、生活を維持するのも大変になってくる。そんな時代にあっても、技術を継承していこうという気合の入った人たちが展覧会を支えているのです」と、恵氏は高いレベルの作品が集まった背景を語る。
日本刀は、日本の歴史とともに、時代の要求に応じて変遷・発展を重ねてきた。「現代では何を刀に映し込んでいるかというと、何でもアリ、めちゃくちゃなんです。見る人の解釈や時代劇での取り扱いにおいてもそう。ですけれど、その中にあっても絶対に外してはいけないポイントがある」と恵氏は力説する。 時代の流れの中で何千年も守られてきたものは何か。それは刀に込められた「日本人の心」だという。「刀を作ることにしても持つことにしても、全ては『祈り』に通じている。歴史上、日本刀がなくなる可能性は幾度となくあった。鉄砲の伝来、明治維新、第2次世界大戦・・・。それでも日本人は、刀を捨てなかったのです」。
道場を訪ねた日は、展覧会の関連イベントとして鍛錬の実演が一般公開された。恵氏が炉で鋼を熱し、弟子たちが大鎚を振るって鍛えていく。道場は、夏の日差しと炉の熱気、そして道場に入りきらないほどの見学者の熱気に包まれた。小さな子供から若い女性、中高年と客層は幅広い。恵氏に熱心に質問する小学生の男の子の姿もあった。 「刀というと今まではどうしても敷居が高く、ごく一部の人しか関心を持ってくれなかった。それが今はインターネット等を通じて、新しい層が興味を持ってくれている」と恵氏は語る。業界としても裾野を広げるため、今回のような公開鍛錬やワークショップなどのイベントを積極的に行っているという。