『「進撃の巨人」完結編』シリーズ最大のヒットが象徴する、2024年映画興行の現状
11月第2週の動員ランキングは、アニメーション版『進撃の巨人』のファイナルシーズン完結編の前・後編を再構築した『劇場版「進撃の巨人」完結編THE LAST ATTCK』が、オープニング3日間で動員17万5000人、興収2億4900万円をあげて1位に初登場した。アニメーション版の『進撃の巨人』が劇場公開されるのは、これが4年ぶり5作目。いわゆる「総集編劇場版」であるということ、そして興収も2014年に公開された最初の『劇場版 進撃の巨人 前編~紅蓮の弓矢~』の4億円をピークに、2作目以降は右肩下がりだったので本連載で取り上げる機会もなかったのだが、最終作となる今作でいきなりハネたかたちだ。 【写真】『進撃の巨人』場面カット(複数あり) 『劇場版「進撃の巨人」完結編THE LAST ATTCK』は全国148劇場(初週)、3週間限定と、スクリーン数も上映期間も限られた興行となるが、初速だけでなくウィークデイの興行でもトップをキープしていて、シリーズ最高の興収を記録するのは確実。週替わりの来場者プレゼントの効果も見込めることもあり、興収10億円の大台も十分に狙える情勢だ。 もっとも、作品の成り立ちにおいても、公開規模においても、本来は興行の脇役であったはずの『劇場版「進撃の巨人」完結編THE LAST ATTCK』がこうして主役に躍り出てしまったのは、本連載で繰り返し触れてきたように、この秋の他の作品の不甲斐なさにある。10月第4週の週末は『ヴェノム:ザ・ラストダンス』(先週末2位)、前週末は『室井慎次 敗れざる者』(先週末3位)の後編『室井慎次 生き続ける者』の先行上映がおこなわれたのも、あるいは『レッド・ワン』(先週末4位)や『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』などハリウッド映画の北米に先駆けての日本先行公開が続いているのも、作品の需要を先食いしてでもなんとかこの状況を乗りきろうとしている配給や興行の苦肉の策であることがうかがえる。 昨年の夏にハリウッドがダブルストライキに入って、それが長期化した時点で、2024年のハリウッド映画がこのような惨状となることはある程度予想できた。公開規模は様々だが、今年になって過去のハリウッド大作から過去の隠れた名作まで、リバイバル上映の企画が相次いでいるのもそれを見越してのことだろう。今年になってから進行しているのは、国内のオリジナル作品や非シリーズ作品、とりわけ実写に対して優位性が高いと言われてきたアニメーション作品の不調だ。「総集編劇場版」である『劇場版「進撃の巨人」完結編THE LAST ATTCK』のシリーズ最大のヒットは、それを象徴する出来事と言うこともできるだろう。
宇野維正