萩原利久にとっての“信頼”とは「自分の言葉で話すこと」
クリエイティブな現場から得た刺激
「緊張感と刺激のある現場」と本作を振り返っている萩原。あらためて、どんな刺激を得る撮影現場だったのか。「ものづくりのプロフェッショナルの方々が集まる現場で、とてもクリエイティブでした。高い集中が求められましたね」と、いつもの飄々とした風でありながら、かつ真摯な熱を込めて話す。 「俳優部に限らず、撮影、照明、衣装、美術……それぞれのプロが、しっかり一つの作品に向き合っている感覚を、現場にいる間ずっと感じていました。『この作品をより良くしよう』という意欲が、常にあらゆる方向から感じられた。自分もそこに乗りたい、参加したい、と自然と思えたんです。やっぱり、感化されますよね。ものづくりをするうえで、これ以上ない環境だったと思います」 どこの現場でも感化されるかと言われると、そうとも言い切れない。「だからこそ、不思議な緊張感がありました。当たり前の話ですけど、噛んだらどうしよう! とかそういったことも考えましたし。でも、そんな緊張感も含めて、楽しかったです」と締める萩原の役者としてのキャリアは、すでに15年を超えている。 長い経験に甘んじることなく、昨今のブレイクの波さえ冷静に見つめているような眼差しは、いつだって「今」と「次」に向けられているように思える。
礒川は「色で例えるなら白」
「礒川を演じるうえで、あえてテーマを掲げるとしたら『いかにクリーンで在れるか』だったかもしれません。色で例えるなら白かな」と萩原の言葉が光る。 「一つの事件を軸に、さまざまなことが起こる。それら一つひとつをありのままに受け止めてしまうピュアさが、彼にはあると思っていて。だからこそ、そこに濁りがあると違うニュアンスに見えてしまう。杉咲さんとのシーンはもちろん、いかに白くクリーンで在れるか、とにかく濁りなく演じるのがテーマでした」 礒川らしいクリーンさを表現するために意識したのは「目の前で起こっていること、会話や景色をちゃんと見聞きすること」。 「今回に限らず普段のお芝居でも意識している点ではあるんですけど、より鮮度を落とさないように気をつけましたね。僕は何回か演じていると慣れちゃうタイプで、その流れが苦手で……。露骨に慣れの影響を受けてしまうので、より『目の前のことを新鮮に受け取る』意識を、自分のなかでクリアに持ち続けていました」 杉咲演じる泉に恋心を寄せる礒川だが、あえて表には出さない。見返りを求めず相手に尽くす彼の姿勢に、萩原はどれだけ共感できたのか。問いかけると「共感は十二分にできるんですけどね……」と少しブレーキがかかる。 「相手を好きだと思う気持ちそのものが、強い動機じゃないですか。言ってしまえばこの動機だけですべてが可能になるし、不可能にもなる。極論ですけど『好きだから尽くした』と言えば、行動理由としては一発で説明できちゃいますよね」 ただ、その想いだけで説明できない面も確かにある、と萩原は慎重に言葉を探し、当てはめていく。 「礒川が泉に協力したきっかけは、間違いなく彼女への好意から。でも、礒川なりに事件に向き合うことで、ちゃんと『そうじゃない部分』にも火がついたはずなんです。彼の行動量を見ていると、人間ってすごいなあって思います。相手を想う気持ちがあれば、どこまででも行ける。だからこそ彼を演じるうえで、クリーンさは欠かせないと感じたんです。あまりにも泉への想いが表に出てしまうと、それこそクリーンじゃなくなっちゃうから」