「発達障害ビジネスだ」専門医が批判、学会も認めない療法を勧めるクリニックの実態 患者の頭に「磁気刺激」、治療代に高額ローン組ますケースも
▽「脳に混線」「グレーゾーン」 患者や関係者によると、診療の流れはこうだ。カウンセラーによる初回面接があり「QEEG」と呼ばれる脳波検査の後、医師の診察に進む。診察の際には、脳の状態を可視化した図面を示し「脳に混線がある」「発達障害のグレーゾーン」などと説明する。治療費を一括で支払えない場合はローンを組ませるなどし、8~48回の施術(費用は最大で計約85万円)を契約させるケースが多い。クリニック関係者は「精神科の専門医はほぼいない。TMSの十分な研修も受けていない」と指摘する。 また、クリニックはホームページで、所属医師を「精神科専属医」「認定指導医」と紹介している。これに対し、日本精神神経学会の専門医は「こうした名称は普通使わない。このクリニックには精神科での実績が乏しく、専門医認定を受けていない人が目立つ」と指摘する。 クリニックは脳波検査のデータから、TMSで刺激すべき詳細部位を特定できると主張しているが、それについて別の精神科医は「脳波検査では刺激部位の特定はできず、発達障害の診断もできない」と否定的だ。
学会の適正使用指針の策定にも関わった慶応大医学部の野田賀大特任准教授(ニューロモジュレーション)は「学会の適正使用指針は、自由診療をする医師らにとってはただの参考資料で、注意勧告になっていないのが実情だ。TMSは効果などについては未知数な部分が多いが、一部のクリニックはビジネス目的で、精神科の専門医によるまともな診察もなくTMSに誘導している」と打ち明けた上で、「TMSは医療技術の一つで、機器の取り扱いには最低でも1~2年のトレーニングが必要といえる。効果や副作用についても分かっていないことが多く、発達障害や未成年の治療を目的に使うのであれば、研究の一環として行うべきだ」と指摘した。 ▽発達障害とは何か 発達障害は2000年代から急速に世の中に知られるようになった。 生まれつき脳内の情報処理や制御機能が偏っていることによる(1)対人コミュニケーションなどが難しい自閉スペクトラム症(ASD)、(2)物事に集中しづらく落ち着きがない注意欠陥多動性障害(ADHD)、(3)読み書きが困難な学習障害(LD)を指す。厚生労働省の2016年の調査によると、診断を受けた人は全国で約48万人(推計)。診断数は増加傾向にあるとされ、認知度の高まりなどが理由に挙げられている。