〈ドル円相場〉激しい値動きのたび、心もサイフもかき乱されて…それでも、懐かしい「固定相場制」に戻れないワケ【経済評論家が解説】
その2:投資家が一斉にドルを買うから
上記の説明は、説得的なのですが、実際には実現することはありません。それは、日本が固定相場制を採用した瞬間に(ドル売りではなく)ドル買い注文が殺到するからです。 米国のほうが日本より金利が高いのに、米国債を買わずに日本国債を買う(米国の銀行に預金せずに日本の銀行に預金する)人がいるのは何故でしょうか。それは、米国債を持っていると、ドルが値下がりするリスクを抱えることになるからです。 円をドルに替えて米国債を買えば、高い金利は受け取れますが、満期にドルを売る際に安くしか売れなければ、結果として損をしてしまいます。そうしたリスクを避けたいので、日本国債を持っているのです。 そんなときに、日本政府がドルの値段を法律で決めてくれれば、日本国債を持っている人は全員がそれを売って銀行でドルを買い、米国債を買うでしょう。そうなれば、銀行にドル買い注文が殺到しますが、ドル売り注文は増えないので、政府が持っているドルを売る必要が出てきます。 日本政府は巨額のドルを持っていますが、日本中の投資家が日本国債を売ってドルを買えば、一瞬で日本政府が持っているドルは売り切れて、注文に応じ切れなくなってしまいます。そうなることがわかっているので、政府は固定相場制を採用しないのです。 戦後は固定相場制が採用されていたので、いまでも採用できると思う人も多いでしょうが、上記のような理由で採用できないのです。では、戦後はなぜ採用できたのでしょうか。それは、戦後は日本人が米国債を買ったり米国の銀行に預金したりすることが原則として禁止されていたからです。 いまからでも「ドルの売り買いは許可制にする」と決めれば第二の説明は成り立たなくなりますが、米国債や米国株の購入を許可制にすることの不便さは固定相場制の便利さより大きいでしょうし、許可制にしても第一の理由は残るので、やはり固定相場制に戻るのは無理なのですね。 今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。 筆者への取材、講演、原稿等のご相談は「ゴールドオンライン事務局」までお願いします。「THE GOLD ONLINE」トップページの下にある「お問い合わせ」からご連絡ください。 塚崎 公義 経済評論家
塚崎 公義