〈ドル円相場〉激しい値動きのたび、心もサイフもかき乱されて…それでも、懐かしい「固定相場制」に戻れないワケ【経済評論家が解説】
2021年には103円台をつけていたドル円相場も、2024年のいまは150円近辺へ。企業も個人投資家も為替の動きに振り回されているわけですが、戦後は1ドル360円の固定相場でした。あの頃は、いまのような混乱はなかったはず…。しかし、いまさらあの仕組みには戻れないのです。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。 年金に頼らず「夫婦で100歳まで生きる」ための貯蓄額
1ドル360円の固定相場制に後戻りできないのは、なぜ?
現在、ドルの値段は「需要(買い注文)」と「供給(売り注文)」によって変動しています。ドルの需要が多ければドルが値上がりし、少なければ値下がりするわけです。これを「変動相場制」といいます。 ドルの値段の決まり方には「固定相場制」というものもあります。これは、法律でドルの値段を決める制度です。戦後の日本では1ドルは360円と法律で決まっていたので、毎日ドルの値段をチェックする必要はありませんでしたし、ドルが値上がりするか値下がりするかによって儲かったり損したりする人もおらず、「ドルが値下がりしたら損してしまう」などと心配する人もいなかったので、便利でした。 「それなら、いまからでも固定相場制に戻ればよい」と考える人もいるでしょうが、それは無理なのです。なぜ無理なのか、2通りの説明が可能です。
その1:日米物価上昇率格差があるから
ドルの値段の決まり方は複雑ですが、基本は「日本と米国の物価が等しくなるように決まる」ことです。1ドルが1円になったら日本人が円をドルに替えて米国に買い物に行くでしょうから、銀行にはドル買い注文が殺到し、ドルは値上がりするでしょう。 反対に1ドルが1万円なら米国人がドルを売って日本に買い物に来るでしょうから、ドルは値下がりするでしょう。結局、日本と米国の物価が概ね等しくなる水準になる力が働くのです。 固定相場制に戻ろうとすると、政府はドルの値段を「日本と米国の物価が概ね等しくなる水準」に定める必要があります。そうすれば、人々は便利な生活を謳歌できるでしょう。 問題は、米国のほうが日本より物価上昇率が高いことです。現在の物価を用いてドルの値段を決めると、10年後には米国のほうが遥かに物価が高くなるので、日本に買い物にくる米国人が大幅に増え、銀行にはドル売りの注文が大量に来るでしょう。ドルの買い注文は増えないので、ドルを売りたいのに売れない人が発生することになります。それでは経済がうまく回らないので、日本政府がドルを買う必要が出てきます。 日本政府がドルを買い続ければ経済は回りますが、20年後にはドルを売る米国人がさらに増え、日本政府は巨額のドルを持つことになります。日本政府が永遠にドルを買い続ければ、無限にドルを買う必要があります。 しかし、そうなると米国人が皆で日本に買い物に来るので、米国企業の製品が売れなくなり、米国から日本に「固定相場制を廃止しろ」と言われる可能性が高まります。その圧力に屈して数十年後に固定相場制を廃止して「もう買わない」と宣言すれば、持っている巨額のドルが暴落して大損するでしょう。 日本政府としては、固定相場制を採用することで巨大なリスクを抱え込むことになることがわかっているので、採用することができないのです。