橘玲氏が「頂き女子りりちゃん」マニュアルを分析…“ギバーおぢ”は単なる「金づる」、ナンパ師との類似性とは
■ 自己評価の低さは「頂き女子」も「ナンパ師」も同じ 橘:私も今回、はじめて読みましたが、これはとても面白いですね。 2000年代のはじめにアメリカでPUA(ピックアップ・アーティスト)が大ブームになり、リアリティ番組までつくられました。魅力的な女の子をピックアップする“ナンパ術“のことで、もともとは恋愛経験の少ない(非モテの)男の子のためのマニュアルでしたが、次第に女性をセックスの対象として評価し、何点の女と何人寝たかを競うようになりました。 「頂き女子りりちゃん」を自称する25歳の女性がつくったマニュアルは、ナンパ師のためのマニュアルととてもよく似ています。 ナンパ師の目的はセックスですから、女性と長くつき合ったり、一緒に暮らしたりする気ははなからありません。「頂き女子」の目的はお金で、“おぢ”はたんなる金づるで、恋愛感情などはまったくありません。 しかしより興味深いのは、どちらも自己評価が低いことです。「頂き女子」マニュアルの冒頭には、お金を稼げば夢がかなうし、「これだけ自分が稼げるんだ!」と自分の価値に気づいて、自分に自信がもてるようになると書いてあります。 ナンパ師も同じで、「こんなに自分はモテるんだ!」という証明(セックスした女性の数)でしか自尊心を保つことができません。――詳しくはPUAのバイブルとなったニール・ストラウスの『ザ・ゲーム 退屈な人生を変える究極のナンパバイブル』(田内志文訳/パンローリング)と、その後の自分探しの遍歴を描いた『ザ・ゲーム 4イヤーズ』(永井二菜訳/パンローリング)を読んでください。 これも怒られるかもしれませんが、男でも女でも、家族・恋人・友人・仕事に恵まれたリア充なら、ナンパや恋愛詐欺で自分の価値を証明する必要はないですよね。 ──頂き女子に騙される「おぢ」については、どのように見ていますか。
■ “ギバーおぢ”は「弱者男性」の典型 橘:PUAと頂き女子のもうひとつの共通点は、心理的な弱点をついて相手を操作しようとすることです。 PUAのテクニックは、自信にあふれているように見えるテン(10点満点)の女性もコンプレックスに悩んでおり、それを利用して(理由もわからないまま)自分に性的な魅力を感じさせることです。 一方、頂き女子のマニュアルには、“ギバーおぢ”を見つけ出し、疑似恋愛にもちこんだうえで、「自分だけがこの不幸な女の子を救うことができる」という“白馬に乗った王子様”体験をさせてあげて、その代償として数百万円から数千万円のお金を「頂く」方法が解説されています。 “ギバーおぢ”は、独身で恋愛経験が少なく、毎日、仕事に行って帰って寝るだけで夢や希望がなく、さびしさを抱えて癒やしを求め、「全部自己責任の考え」をもっているとされます。これはいわゆる「弱者男性」の典型で、「頂き女子」はそんな真面目でやさしい中高年の男にひと時の夢を見させることで、金銭的な報酬を得るビジネスなのです。 相手の純情を踏みにじって搾取するのはたしかにヒドい行為ですが、だとしたらナンパ師も同じです。そう考えれば、(ナンパ師は法で処罰されないのですから)懲役9年という頂き女子の判決は重すぎるようにも思えます。 売春が世界最古の職業といわれるように、男女の性の非対称性から、突き詰めていうならば、男の目的はセックスで、女の目的はお金(資源)です。 しかし女の理想は「愛されること」でもあり、だからこそ“ギバーおぢ”から稼いだお金を、「こんな自分でも価値がある」と証明するためにホストに注ぎ込んだあげく、すべて巻き上げられたという結末も考えさせられるものがあります。 【連載:橘玲氏に聞く「エロス資本」】 (上)新宿タワマン刺殺事件を「頂き女子」文脈で語ってはいけない…橘玲氏が問う、エロス資本のマネタイズはダメなのか? (中)橘玲氏が「頂き女子りりちゃん」マニュアルを分析…“ギバーおぢ”は単なる「金づる」、ナンパ師との類似性とは (下)SNSが結びつける「エロス資本」と「おぢ」、女神化した女性と交際し一発逆転を狙う「無理ゲー」が不幸な事件を招く
橘 玲/湯浅 大輝