『おむすび』が描く“支えられる側”の苦しみ 愛子が提示した“善意の押し付け”への処方箋
「誰にだってあるでしょ。よかれと思ってやったことでもちゃんと伝わらないことって」 『おむすび』第44話は、誰かの役に立つことの難しさを浮き彫りにした。米田家に泊めてもらった佳純(平祐奈)。歩(仲里依紗)のベッドを借り、早朝からウォーキングすると、愛子(麻生久美子)に朝食のメニューをリクエストするなどマイペースぶりを発揮した。 【写真】明日の『おむすび』は? 第45話場面写真(全3枚) 糸島の食材を使った和朝食に、佳純は顔をほころばせる。歩と聖人(北村有起哉)の会話を佳純はじっと見つめていた。 「なんかうらやましい。うち、家族みんなでご飯食べても、ほとんど誰もしゃべらへんし」 何でも話せる米田家に羨望の眼差しを向けた。それを聞いて愛子が口を開く。実は愛子は前日の夜、佳純の母に会っていた。佳純が「働かなくていい」と父親に言われたのは愛情の裏返しだと語る。そして、冒頭の台詞につながる。 専門学校で、結(橋本環奈)は沙智(山本舞香)に話しかけた。実習を通して互いを知った沙智は、結のことを以前ほどあからさまに嫌っていない。結は沙智に失礼なことを言ってしまったと詫びてから、「みんなそれぞれ誰かを支えようと思って、一生懸命勉強しとう」と付け加えた。その一言が沙智の怒りに火をつけた。 第9週では善意のすれ違いが描かれた。真紀(大島美優)の墓参りに行った歩、孝雄(緒形直人)を気づかって拒否された聖人、佳純の父親、翔也(佐野勇斗)に献立を考えた結。全員が一生懸命なのに喜ばれない。そのことを沙智は「支えられる側のこと考えたことあんの?」と指摘し、翔也は「文句言ったら罰当たんべ」と言った。善意を拒むのは悪いことという意識がある。でも本音を言えば、迷惑なのだ。気持ちはうれしいけれど。
出発点が自分か相手なのかで、その後の進み方は大きく変わる。避難所へ届く大量の支援物資が頭に浮かんだ。不用品を処分したと思われる物品。よかれと思って送られたものが空きスペースを占拠したり、さばくのに人手不足になるなど、かえって負担になることもある。それが広く報じられたのが阪神・淡路大震災だった。 善意の押し付けは相手を縛る“呪い”に変わる。あやうく結は翔也をダメにしてしまうところだった。目の前の人を救わなければという使命感は、相手が見えていないと暴力にすら転じかねない。そうならないための処方箋も提示されていた。愛子の「話せばきっと伝わる」は双方向の対話を意味し、相手の話を「聞く」ことも含まれる。失敗エピソードを通じて、さりげなく現代の呪いを解毒する『おむすび』である。
石河コウヘイ