障害のある子の高校進学、特別支援学校の「職能開発科」選ぶメリット
ただ守られる雇用環境でなく、自己実現して働ける場所へ
夏休み期間を除く6月以降は、ほぼ毎週学科説明会と見学会を実施している。参加者数はほぼ毎回、定員の50人に達するという。職能開発科への出願には個別説明を受けることが必要になるが、こちらの申し込みも盛況だ。 「グレーゾーンを含め、支援を必要とする人たちは進路選択にとても悩むものです。出願にあたっては中学校での指導が非常に重要になるので、本校の開校前から、周辺の中学校ともコミュニケーションを心がけてきました」 こうした活動の中で、濱辺氏は、中学校での進路指導の難しさも耳にした。大部分の保護者はそうではないが、ごく一部、子どもの「高卒資格」にこだわるケースがあると言う。 「特別支援学校ではなく単位制などを含めた高校に入れたがる親御さんはいますし、生徒自身がそう望む場合もあります。しかし、所要単位や出席日数を満たして本当に卒業までたどり着けるのかと考えると、入学すればそれで安心というわけにはいきません。本校で示したいのは、ただ入ればいいという短期的な目標ではなく、3年後、5年後にどう生活していくか、社会でどう活躍していくかという長期的な選択肢なのです」 職能開発科では全員の企業就労を目指しているが、それだけがゴールではない、と濱辺氏は続ける。 「職業の重要な3つの要素として、経済性だけでなく、納税による社会貢献や個人の生きがいを満たすことが挙げられます。これは知的障害のある人たちにとっても同じこと。卒業生には、ただ守られる雇用環境でなく、自己実現の一つとして働ける場所へ羽ばたいてほしいのです。東京都では、卒業後も約3年間は学校によるフォローが求められているので、それも見据えてしっかりと関係を築いていきます」 先輩や卒業生がいないという初年度の現状を、メリットにしていきたいとも考えている。 「スタートしたばかりだからこそ、自分たちで学校を作っていくことができるフロンティア感があります。先生たちも意欲的で風通しがよく、アットホームな雰囲気は自慢です。保護者も非常に協力的で、入学式では在校生の代わりに校歌を歌ってくれました。事前に渡したCDや楽譜、動画を見て、校歌を覚えてきてくれたのです。両親だけでなく祖父母や親戚を連れてきた家族もあり、1年生しかいないにもかかわらず、入学式はとてもにぎやかでした。学校への期待の大きさを感じましたし、それに応えたいと強く思っています」 2027年には、同校の職能開発科から初めての卒業生が巣立つ。そのときには「本校の先輩が働く会社で生徒が研修する取り組みを作り、それを伝統にしていきたい」と話す濱辺氏。「卒業生も張り切って教えてくれるでしょうし、生徒も自分の未来像がリアルに描けて、双方にいい効果があるはず。今からそれが楽しみです」とにっこりした。 (文:鈴木絢子、写真:東京都立八王子南特別支援学校提供)
東洋経済education × ICT編集部