手塚治虫「火の鳥」の大規模展が3月に開催 生物学者・福岡伸一氏と手塚るみ子氏が語る魅力とは
マンガの神様・手塚治虫のライフワークに迫る『「火の鳥」展 -火の鳥は、エントロピー増大と抗う動的平衡(どうてきへいこう)=宇宙生命(コスモゾーン)の象徴-』が3月7日から東京シティビュー(六本木ヒルズ森タワー52階)で開催される。 【写真】会見で意見を交わす福岡伸一氏と手塚るみ子氏 生物学者・福岡伸一氏が企画に携わり、30年以上の長きにわたって執筆された壮大な叙事詩を読み解く。名作の連載開始から70年が経過した今、福岡氏を道先案内人として、新たな生命論の視点から『火の鳥』の物語構造を読み解き、手塚治虫が生涯をかけて表現し続けた「生命とはなにか」という問いの答えを探求する。 福岡伸一氏は1959年、東京生まれ。京都大学卒および同大学院博士課程修了。ハーバード大学研修員、京都大学助教授などを経て、現在、青山学院大学教授・米国ロックフェラー大学客員教授。サントリー学芸賞を受賞し、90万部のロングセラーとなった『生物と無生物のあいだ』、『動的平衡』シリーズなど、“生命とは何か”を動的平衡論から問い直した著作を数多く発表している。 同展開催決定の際、福岡氏は「手塚治虫のライフワーク『火の鳥』。テーマは〝生きること、死ぬことの意味は何か〟。人間にとって最も深遠な問いです。全編にわたって不死鳥“火の鳥”が登場し、生に執着する人間を翻弄しながら物語を動かします。そこでは、あらゆる生命が常に姿と形を変えながら、連綿と受け継がれていく輪廻転生の生命観、汎神論的な世界観が示されます。これは、生命が絶えず自らの破壊と創造を繰り返しながら、エントロピー増大の法則に抗い続けている『動的平衡(どうてきへいこう)』であるとする私の生命論とぴたりと重なります。本展の狙いは、動的平衡の視点から火の鳥の意味を読み解くことにあります。そして、手塚治虫が描くことを約束しながら果せなかった物語の結末を想像してみたいと思います。ぜひご期待ください」と談話を発表している。 同展の展示会場は、プロローグから始まり、3章立てで構成。原画をはじめ、映像、関連資料、そして「火の鳥」の世界観を表現したグラフィック等、計800点以上の展示品が並ぶ。マンガの神様・手塚治虫の画力と筆致を目の当たりにする「見て・読んで・体感できる」展覧会。そして、未完に終わった物語の結末について、福岡氏がさまざまなヒントをもとに1つの仮説を立て、考察する。3章の概要は次の通り。 ◆第1章 生命のセンス・オブ・ワンダー 『火の鳥』の誕生は1954年(昭和29年)、学童社「漫画少年」での黎明編の連載が始まりだった。その後「少女クラブ」、虫プロ商事「COM」等、掲載誌を変えて、連載が継続。作品の時間軸は、紀元前から西暦3000年を超える未来まで、そして物語の舞台は、邪馬台国から果ては宇宙のかなたまで、時空を超えた壮大な叙事詩が連作される。第1章では、この複雑な物語構造を明らかにし、作品舞台の時代背景とともに年表形式でたどる。また、この偉大な物語を手塚治虫はどのように発想し、構想を深めていったのか。創作の原点にも迫り、作品に溢れる自然に対するセンス・オブ・ワンダー(畏敬の念)に触れます。 ◆第2章 読む!永遠の生命の物語 第2章では、主要12編(「黎明編」から「太陽編」まで)の貴重な原稿を多数展示。火の鳥は、その生き血を飲めば不老不死になれると信じ、生に執着する人間を翻弄しながらも、物語を動かし、人類の来し方行く末を常に見守る存在として描かれる。“火の鳥”は、いったい何を象徴しているのか。「生命とは何か」という問いに、手塚治虫はどのような答えを示そうとしたのか。福岡氏が読み解き、混迷を極める現代に向けて、私たちの“生”のありようを哲学する。 ◆第3章 未完を読み解く 「死とはいったいなんだろう?そして生命とは?この単純でしかも重大な問題は、人類が有史以来取り組んで、いまだに解決していないのだ。」――これは、手塚治虫が「火の鳥」黎明編の連載の最初に、読者にあてた文章の一部です。手塚治虫は、作家人生43年のうち、35年もの間「火の鳥」を描き続けたが、物語の結末について問われたとき、死ぬときに描いてみせると言明し、作品は未完のまま終了。手塚治虫はいったいどのようにして物語を完結する予定だったのか。永遠の生命をもつことは幸せなのか?――生命は、有限であるがゆえに輝く――「火の鳥」最大の謎に、福岡氏が1つの答えを導き出す。 【次ページ】福岡氏と手塚るみ子の対談が開催