ヒズボラの「ポケベル爆弾テロ」はなぜ起きた?サプライチェーンの「新たな脅威」とは
ポケベル爆弾の製造元は「存在しない企業」
ポケベル攻撃(Pager Attack)に使われたのは、台湾のGOLD APOLLOのロゴや型番のラベルがついていた製品だ。トランシーバー爆弾は日本のiCOMの製品ロゴ、型番のラベルが確認された。しかし、両社ともに公式にテロやイスラエルとの関与を強く否定している。 GOLD APOLLOは、「爆弾に使用された製品は、ブダペストのBAC Consultingという会社にライセンスしたもので、自社で製造したものではない」と主張している。現在、BAC Consultingのものと思われるWebサイトはアクセスできない。同社は2022年に設立されたばかりだ。住所として登録されているビルには、同一人物が設立した13の企業が登記されているというが、従業員や工場などの情報はなく典型的なダミー企業である可能性が高い。 一方、iCOMは、日本国内の工場でしか製造していない。海外では偽造品・模造品が多いため、現在流通している正規品にはホログラムシール、シリアルやQRコードによる製品トラッキングができるようになっている。しかし、当該製品はこれらの対策前に製造が中止されているため、偽造品かどうかの確認はできないという。 ポケベルは、ダミー会社が買ったライセンスによって生産された可能性があり、廃番となっているトランシーバーは、市場在庫やデッドストック(あるいは偽造品)をなんらかの方法で入手して改造する方法が考えられる。
爆弾の開発に関与したとされる「8200部隊」とは
起爆については、遠隔操作による可能性が高いという。報道の中には、時限発火によるものという分析もあったが、実行前にヒズボラ構成員2名がポケベルの工作に気づいたために起爆させたという情報もある。また、大量の製品を事前に製造または加工し、標的だけに利用を浸透させたプロセスを考えると時限発火は考えにくい。 インターネット上には、高度なハッキングを行い、ポケベルやトランシーバーのバッテリーを遠隔で発熱、暴走させたとの推測も流れた。しかし、攻撃に利用されたポケベルの電池は一般的なアルカリ乾電池を利用していた。 トランシーバーならバッテリーをショートさせればちょっとした爆弾にはなりそうだが、いくつかの映像を見るかぎり、リチウムイオンバッテリーの発火というより、なんらかの爆発と見るのが妥当だ。 また、爆薬はペンスリットではないかという分析もある。導火線や小規模の発破に使われる炸薬で、入手もそれほど難しくない。熱や衝撃に強く扱いやすい爆薬だが、半面起爆には雷管などが必要になる。小規模でも人体に近いところの爆発なら、機器の破片などで効果(殺傷能力)を高めることが可能だ。 ポケベルやトランシーバーの調達は、イスラエルのモサド(諜報機関)が主導したとされるが、ポケベル爆弾やトランシーバー爆弾を開発したのは「8200部隊」とされている。8200部隊はイスラエル正規軍の一組織で、諜報機関ではない。1948年から続いた中東戦争当初は、兵器や通信機器の修理や再利用、改造を行う部隊であった。 しかし、現在はハッキングや情報通信機器のエキスパートがセキュリティ対策・サイバー攻撃手法や兵器開発を行っている精鋭部隊だ。なお、8200部隊の研究成果は比較的オープンで、研究者が退役後にその成果を応用した技術やサービスで起業することも多い。