〈川崎・中1殺害事件〉 それでも少年法が必要な理由とは? 弁護士・松原拓郎
「厳罰化」や適用年齢の引き下げ 犯罪抑止の効果は?
もちろん、少年犯罪の数が減っているとしても、犯罪はさらに少なくするべきです。それでは少年事件について厳罰化する、または、少年法の適用年齢を引き下げることには、少年犯罪を抑止する効果があるのでしょうか。 少年法はこれまで何度か改正されています。しかし、改正の効果は、これまで十分に検証されたことがありません。たとえば、平成12年の少年法改正では、(1)刑事処分可能年齢を16歳から14歳に引き下げ、(2)犯行時16歳以上の少年が故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件については、原則、検察官送致決定をするものとする、といった改正が行われました。しかし先の平成25年版犯罪白書の統計を見ると、平成12年の少年法改正の時期から数年間は、逆に、少年の一般刑法犯が増えているのです。統計上の数字の上下を見ても、厳罰化し、適用年齢を下げれば犯罪は減るはずだ、というのは、感覚的には自然に思えるかもしれませんが、実は根拠はないのです。 また、実際に事件を起こしてしまった少年たちの特性や実例を観察しても、厳罰化が少年の犯罪の抑止、あるいは犯罪傾向の改善に一般的につながるとは言えません。このことは、たとえば発達障がいを有する少年への処遇などを見ても、明らかといえるでしょう。 厳罰化によっては少年犯罪が減らない理由や、少年犯罪が起きる原因について、正確な事実認識と少年の特性理解などを元にした、冷静な議論が必要です。
実名報道についてどう考えるか
今回、実名報道の問題についても、さまざまな議論があります。 実名報道は少年の更生を阻害するとの意見に対しては、加害少年の更生などを考える必要はないとの意見もあります。しかし、それを突き詰めていけば、過ちを犯した人間はすべて隔離し、社会復帰を許さない、ということにつながっていくように思います。そこには、少年に限らず犯罪者は自分たちとは違う人種だ、とでもいうような認識があるように感じます。 しかし、実際にはそうではありません。実際に弁護士として少年を含む多くの加害者に向き合っている立場から言えるのは、多くの人は、「まさかあの人がこんな事件を起こすなんて」と周囲の人から思われる人たちだということです。そして、加害者が事件を起こすまでにはさまざまな理由や背景があることも、ここでは指摘しなければなりません。断罪的な意味で実名報道を求める論調は、加害者がさまざまな理由や背景から犯罪を起こすに至ったということへの理解が十分ではないので、犯罪の抑止や再犯防止にはつながりづらいと思います。