〈川崎・中1殺害事件〉 それでも少年法が必要な理由とは? 弁護士・松原拓郎
少年法の歴史
少年法は戦後に生まれたものではありません。少年法は、日本で「刑事未成年」制度が生まれ、成年・少年処遇とを分けて扱うようになった明治13年の旧刑法からの流れを背景とし、大正11年に制定されています。世界的に見ると、都市化・工業化が進んできた産業革命期以降、少年「非行」という概念が生まれ、これに対する法システムが世界的に作られていきました。児童心理に関する専門的知見も深まり、少年裁判所の設立・少年法の制定等につながっていったのです。こうした動きの背景には、少年が事件を起こすには、それなりの理由や背景があるということに対する理解、少年犯罪の防止には、その背景に応じた対応が必要であるとの理解が、広くコンセンサスを得てきたことがあります。
少年法の意義
法にも、社会にも、歴史と経験の積み重ねがあります。私たちが自身で経験できる知識と経験には限りがあります。それを補い、より正しい判断を行っていくために歴史を学ぶ意味があり、自身の判断の正当性を客観的に評価するために、前の経験に学ぶ意味があります。 私も、少年法をいわば「不磨の大典」のようにとらえるべきではないと思います。しかし、少年法という法律が先に述べたように長い歴史を踏まえて作られてきたことには、歴史的、経験的に見てそれなりの理由があるのだろうと思います。犯罪を許してはならないという点ついては、異論はないでしょう。問題は、犯罪抑止という目的のために私たちは何を、どのように考えるか、です。少年が事件を起こすには、それなりの理由や背景があり、犯罪防止にはその背景に応じた対応が必要である、という少年法の背後にある考え方。これには、今でも、十分な意味、合理性があるのではないでしょうか。 ------------------------ <プロフィール> 松原拓郎(まつばら・たくろう) 2002年弁護士登録(東京弁護士会多摩支部)。弁護士登録以来多摩地域を中心として活動し、民事・家事事件、高齢者・障がい者・児童福祉分野などのほか、これまで多くの刑事事件・少年事件を担当。