増える単独行動テロ 現状と対策は? 国際政治アナリスト・菅原出
なぜオーストラリアで単独行動テロが起きるのか?
2014年12月15日にオーストラリアの最大都市シドニーのカフェで発生した人質事件は、イスラム過激派「イスラム国」と関係のあった「テロ」であったのかどうか、オーストラリアではいまだに議論が続いています。 射殺された容疑者は、過去に殺人事件への関与や性犯罪容疑などの経歴があったことが分かっており、地元のイスラム教団体からも疎外されていたようですが、ウェブサイトでイスラム国への支持を表明したり、立てこもり最中もイスラム国の旗を届けるように要求したことから、イスラム国に何らかの影響を受けた可能性が指摘されています。 このシドニー人質事件は、イスラム国など過激派の思想にネット等を通じて感化された世界各国の移民や若者が、短期間のうちに過激化し、単独でテロを実行するリスクが高まっていることをあらためて世界に印象づけました。 「自国育ち(ホームグロウン)テロ」とか「一匹狼型テロ」等と呼ばれる単独行動テロの脅威については、数年前からメディアでもよく取り上げられるようになっていますが、2014年の後半は特にこの種のテロに分類されるような暴力事件が立て続けに発生しました。 オーストラリアでは、このシドニー人質事件に先立つ2014年9月18日に、シドニーやブリスベンなどの主要都市で警察官800人を動員した史上最大の対テロ作戦が行われました。この作戦では、「オーストラリア市民の誘拐と公開殺人を計画した」としてテロ容疑者15名が拘束されました。またその直後の9月23日には、メルボルン近郊の警察署で、テロ対策関連の捜査対象になっていた男が、警察官2名をナイフで刺す事件が発生。翌日地元紙は、この男がイスラム国の旗を持っており、警官を殺害してインターネットで公開する計画だったと報じました。この男はすでに警察の捜査対象になっていて、「シリアに渡航してイスラム国に加わるおそれがある」として旅券を没収されていました。 オーストラリアは、イスラム国と戦うイラク軍を支援するために陸軍の特殊部隊をイラクに派遣したり、イスラム国に対する有志連合軍の空爆作戦に参加するなど、米国が中心に進める対イスラム国戦争に積極的に参加しています。これに対してシリアに渡りイスラム国の戦闘員になったオーストラリア人は60人以上いると言われており、オーストラリア国内にも相当数のイスラム国支持者がいて、こうした政府の姿勢に反発しているため、オーストラリア政府はテロ警戒レベルを上げてテロ対策を強化していたのです。 こうした流れの中でシドニー人質事件が起きたので、「またイスラム国支持者によるテロか?」と多くのオーストラリア人が思ったとしても不思議ではないでしょう。