増える単独行動テロ 現状と対策は? 国際政治アナリスト・菅原出
こうして見ていくと、先進各国の治安当局は、通信傍受などの手段を通じて、テロ組織が大規模なテロを実施することを未然に察知して防いだり、危険思想を持つ個人についてもある程度は監視下において旅券を取り上げるなどの予防措置をとっているものの、渡航したくてもできずに国内で暴発してしまう一匹狼の「テロ」までは防げません。見方を変えれば、「単独行動テロの増加」は、組織的な大規模テロを防ぐテロ対策が効果を上げていることの反動であるとも言えるかもしれません。 単独行動テロを未然に防ぐのは、簡単ではありません。一個人が過激な考えを持つだけでは「テロ」にはなりません。その個人が行動を起こしてはじめて犯罪として取り締まりができるようになるからです。そして個人が過激な考えを持つようになり、行動にまで及ぶには、貧富の格差や移民の差別の問題や家庭環境など、様々な過程や要因があり一定ではありません。強盗や殺人などの犯罪を完全に撲滅出来ないのと同じように、単独行動テロを完全に防ぐのも非常に難しいと言わざるを得ないでしょう。 当面個人としてできる対策としては、対イスラム国戦争に参加している国々に渡航する場合に、ショッピングモールや駅、バスターミナルなど、テロのターゲットになりやすく警備も難しい公共施設に滞在する時間を最小限に抑えることが考えられるでしょう。単独行動をとるテロリストの多くは、高度な訓練などを受けておらず、警備の行き届いた政府施設等を襲撃する能力はありませんので、警備が手薄で人がたくさん集まる場所で行動を起こすことが多いからです。 各国の治安機関や情報機関が、それぞれの国に大きな脅威を及ぼす組織的な大規模テロを防ごうと対策を強め、さらに危険人物のイスラム国への渡航規制を強化すればするほど、皮肉にも先進国内での単独行動テロは増える傾向が強いと考えられます。当面は、人が多数集まる公共の場所にいる時間をなるべく短くすることで、テロに遭うリスクを下げるしかなさそうです。 ----------------- 菅原出(すがわら・いずる) 国際政治アナリスト、危機管理コンサルタント。米国の対テロ政策、中東など紛争地域の政治・治安情勢に詳しい。著書に『秘密戦争の司令官オバマ』(並木書房)、『リスクの世界地図』(朝日新聞出版)などがある。 【Source】 “The Rise of the Lone Wolf Terrorist”, TIME, October 23, 2014 “The global rise of terror ‘lone wolf’ attack”, Telegraph, December 16, 2014 “Should I Stay or Should I Go? Explaining Variation in Western Jihadist’ Choice between Domestic and Foreign Fighting”, American Political Science Review, February 2013