『レ・ミゼラブル』のラジ・リ監督による最新作『バティモン5 望まれざる者』。「暴力ではない解決策を提示したい」
ラジ・リ監督の名を世界に広めた前作『レ・ミゼラブル』(19)から4年。脚本・製作を務めたNetflixオリジナル映画『アテナ』(22、ロマン・ガヴラス監督)を経て、前作同様パリ郊外のバンリューと呼ばれる犯罪多発地域を舞台に、新たな映画『バティモン5 望まれざる者』(公開中)を作り上げた。タイトルの“バティモン5”とは、労働者階級の移民たちが多く住む地区のことで、この地区に再開発計画が持ち上がったことにより、団地取り壊しに反対する市民と行政が対立する。本作で、ラジ・リ監督に話を訊いた。 【写真を見る】『レ・ミゼラブル』をはじめ、貧困や移民政策の問題に鋭く切り込むラジ・リ監督 ■「『レ・ミゼラブル』と同じパリ郊外が舞台ですが、直接的関連性はありません」 『レ・ミゼラブル』と同じパリ郊外を舞台にしているが、2作品に直接的関連性はなく、「もしも繋がりがあるとしたら、地理的なことだけです。それは私という人間が関わっている限り、切り離すことはできません。だから映画制作の原点という意味では繋がりがあり、物語という意味ではまったく別の作品です」と、関連性を否定する。 とはいえ、ラジ・リ監督とは20年来の友人で、『レ・ミゼラブル』『アテネ』にも出演していたアレクシス・マネンティも引き続き出演している。ラジ・リ監督は「私たちは一緒に演技を始め、アレクシスはカメラの前、私はカメラの後ろとポジションを変えながらもずっと一緒にやってきました。私にとって、彼に出演を依頼するのはとても自然なことなんです」と言う。 物語は、急逝した市長に代わり臨時市長となったピエール(アレクシス・マネンティ)と、アフリカ移民でバティモン5に住む若き女性スタッフのアビー(アンタ・ディアウ)を中心に、行政と市民の軋轢を描く。今作が映画初出演のディアウは、演劇ワークショップに参加しているところをラジ・リ監督に見出され、脚本を読むまでもなく出演を決めたのだそうだ。だが、脚本はあくまでも映画の設計図であり、現場に立った役者が息を吹き込み初めて成り立つものだと、ラジ・リ監督は考えている。「セリフの意図や意味が大きく変わらなければ、撮影現場で役者が言いやすいよう、演じやすいようにセリフを変えることは大歓迎です。俳優たちが自由に演じられる場所を作るのが、監督の役目だと思っているからです」 フランスのみならず、貧困や移民政策は世界の多くの国が抱える問題となっている。だが、ラジ・リ監督が「『レ・ミゼラブル』とは異なる物語だ」と断言するように、このような問題を前に、市民ができることを描こうとしている。「一見オープン・エンディングに見えるかもしれませんが、目を凝らして見ていただくと(アニタ・ディアウ演じる)若い黒人女性が、強い意志を持って体制に立ち向かい、力を制御しようとしています。彼女の行動は、一つの解となる糸口を表しています。コミュニケーションの欠如、そしてニヒリズム。それこそが問題を悪化させる要因だと考えるからです。この作品では、暴力ではない解決策を提示したいと思いました」 取材・文/平井伊都子